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牡丹は蝶の翅のかほりに-9
「飲み物どうします?」
「俺、グラスワインの赤ね、シンジぃ」
「あ、俺はオレンジジュースでお願いします」
「しんちゃん、俺ぁビール! ねぇねぇっ兄貴は何にする!?」
「ビールで」
「すみません、私も同じものを」
それにしても大所帯だな、と。ドリンクオーダーをとりにきた店員に告げながらシンジは改めて思った。
そこはイタリアンレストランだった。
蜩の知り合いがやっている店で、もちろん、蜩がセッティングしてくれた。
最初は蜩と、その年下の恋人の凪と、シンジと黒埼弟という面子の予定だった。
『なぁ、しんちゃん、兄貴も連れてっていい?』
黒埼弟から問いかけられてシンジは一瞬迷った。
弁護士と闇金業者支配人を会わせていいものかと。
職業柄、軋轢でも生まれやしないかと。
『うーん、そうだね……』
『よっし、じゃあ決まりな!』
『あ……、うん』
かくして黒埼兄の参加も半ば強引に決められて。
「あの……私、今日来てよかったのでしょうか?」
「え!? いや、俺こそよくわかんないまま連れてこられたっていうか」
テーブルの端につく凪に向かい側から話しかけているのは、黒埼の恋人だという、綾人だ。
揺るぎない物腰の黒埼が、じゃあこいつも、というノリで連れてきたのである。
あの人が例のお兄さんの恋人か……。
ていうか、男だったんだな。
お兄さんは相当な面食いだな。
「飯の方はテキトーにって、もう頼んでるから」
隣に座る上司の蜩を、シンジは、珍しくちょっと頼もしく思った。
こんなちぐはぐな席をまとめる自信、まるで、ない。
「カナカナさん、兄貴にちょっと似てるよな!?」
黒埼弟の突飛な発言に、向かい合う当人達は顔を見合わせた。
「どうですかねぇ?」
「どうでしょうね」
ちなみに今日は仕事が休みだった蜩は完全なるオフバージョンだ。
確かに……外見は若干かぶるところがあるかもしれない。
「お兄さん、彼は職場の上司で蜩と言います」
「どうも。ウチのシンジがお世話になっております」
「いえ、こちらこそ弟がシンジさんのお世話になっているようで」
「いえいえ。で、この子は見習いのポチ君です」
「ええ……っ、うう……っ、ポ、ポチです」
「ぶっっ! 犬っころみてぇな名前!」
「黒埼さんのお隣に座られている方は?」
「弟の上司に当たる事務員の佐倉です」
「はぁぁ!? 俺の上司は兄貴だけだぞ!!」
「弟さんの言う通り、上司だなんて恐れ多いです……初めまして、佐倉綾人と申します」
とりあえず自己紹介が済んだ。
飲み物が運ばれてきて、シンジは妙な緊張感を拭うため、ぐっとハイネケンを飲む。
「なんか合コンみたいじゃない?」
蜩が余計なことを言ったので危うく噴出しそうになった。
やめてくださいよ、本当にもう。
まぁ、もしそうだとしたら、俺の狙いは真正面に座ってる子ですけどね。
「兄貴のビールうまそぉ、俺に一口ちょーだい!!」
自分も同じビールを注文したというのに、わざわざ兄のグラスからビールを飲んでいる黒埼弟。
これは手強いな、今日一日で落とせるかどうか。
……いやいや、これ、合コンじゃないし。
「兄貴ぃ、パスタまいて! パスタまいて!」
どこまでお兄さんに頼るんだろう、黒埼君、俺が目の前にいるのに。
しかもお兄さんもお兄さんで黒埼君の我侭、全部聞いてあげてるんだよな。
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