作者: 石月煤子

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牡丹は蝶の翅のかほりに-11

「俺、お化け屋敷行きてぇ!!」 食事を終え、未成年もいるということで二次会は憚られ、さぁ解散というところで。 黒埼弟の口から突飛な発言が飛び出した結果。 皆は商業施設内にある屋内型遊園地のお化け屋敷へ行くことに。 <少女の亡霊が友達をほしがっています……母親のつくった折鶴を友達の代わりに、死に場所となった浴室へ供えましょう……奇数で入ると一人連れて行かれるので、必ず、偶数でお入りください……> お化け屋敷のキャッチフレーズを読んだ凪の顔色が早速悪くなっている。 そんな年下の恋人の肩を叩き、蜩は、提案する。 「二人ずつ入りましょうか。ジャンケンで同じのを出した人同士、コンビ組むってことで、どうでしょう?」 蜩の提案に黒埼は頷いた。 隣に立つ綾人も、心なしか、顔色が悪い。 「兄貴兄貴! 兄貴は何出す!? グー? グー出す!?」 兄に問い詰める黒埼弟をちらりと見、シンジは、グーを出そうと心に決めた……。 冷房で凍えるくらいに冷えた薄闇。 昔ながらの和風家屋に見立てた通路にずらりと並んだ市松人形の群れ。 シンジはつい尻込みする。 ずっと少女の泣き声が聞こえていて薄気味悪い。 そこへ、いきなりのラップ音。 「わぁぁ!」 さすがのポーカーフェイスも大声を上げて真横の同伴者にぶつかった。 「あっすみません……」 「いえ、大丈夫ですか、シンジさん」 薄暗い中、サングラスをかけたままの黒埼に落ち着き払った声で問いかけられてシンジは恥ずかしくなる。 な、なんでグーを出さなかったかなぁ、黒埼君は。 「お、お兄さんは随分平気そうですね」 「いえ、びびってますよ」 嘘ばっかり……。 陰惨極まりない血みどろの台所にて戸棚から飛び出してきたお化け役に黒埼弟はぎゃーぎゃー悲鳴を上げた。 「わぁぁぁ! あああ兄貴ぃぃ!! やられるぅぅ!!!」 「大丈夫だって、黒埼君?」 「あああ!? あっ兄貴じゃねぇ!! ぱわ原さんだぁぁ!!!」 「さっきジャンケンでパー出してコンビ組んだでしょ?」 シャツが伸びるほどに黒埼弟からぎゅうぎゅうしがみつかれて、蜩は、失笑する。 凪より図体のでかい黒埼弟は、顔を上げられず、完全に蜩の片腕をホールドしている。 歩きづらいし結構痛いんだけど。 いつもと違う趣向が楽しめて悪くはないか。 「ほら、進まなきゃね、黒埼君?」 「むむむむむりむりむりむり」 がっしゃーーーーーん!!!! 「ひぃぃ!! なんか割れたぁぁ!! カナカナさぁぁんったたた助けてぇぇぇ!!」 手にした折鶴をぺしゃんこにして喚く黒埼弟。 シンジに悪いなぁ、そんな僅かばかりの後ろめたさを感じつつも怯えまくる黒埼弟の脇腹にぐっと手を回し、引き摺るようにして、ニヤニヤ蜩は出口を目指した。 破れ障子に囲まれた座敷にて。 どたどた行き交うお化け役に二人は抱き合って悲鳴を上げた。 「ひぇぇぇぇ!! もぉだめ、もぉ帰る!!」 「わ、私も腰が抜けて……きゃー!!」 障子をばりばり突き破ってきた腕に綾人は紛れもない叫び声を、凪はそんな綾人の胸に抱きついてぎゃんぎゃん泣き喚く。 それでも百合コンビは何とかリタイアせずに出口へ到着した。 「あはは、だいじょーぶ、ポチ君?」 「佐倉さんの悲鳴、ここまで聞こえたぞ」 恋人をそれぞれ労わるバカップル二組をちらりと見、シンジは、放心している黒埼弟を慰めてあげようかと手を伸ばしたら。 「ひぃぃぃ!!」 お化け屋敷の余韻が抜けていない黒埼弟から思いっきり手をはたかれた。 「……あ、悪ぃ、しんちゃん。お化けかと思ったわ」 「……いいよ、気にしないで、黒埼君」 あんなバカップルになるにはまだまだ先が長そうだ。

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