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牡丹は蝶の翅のかほりに-15

「ちょうちょ~ちょうちょ~牡丹にとまれ~」 ハシゴした二軒目のこぢんまりしたバー。 壁際のテーブル席でモヒート片手に六華が歌う。 歌っていたかと思えばシンジの二の腕を突っついてくる。 「しんちゃん、いつになったここに蝶飛ばすん?」 「うん、そこに蝶が飛ぶことは多分永遠にないから」 何故か六華はシンジに蝶のタトゥーを彫れとやたら勧めてくる。 毎回、シンジはやんわりあしらっているが彼はなかなか諦めてくれない。 「永遠とか、かっけぇな、しんちゃん」 適度に酔いの回った六華は斜めから壁にもたれて笑った。 六華の背中には艶やかな牡丹が咲いている。 初めて彼とお酒を飲んだ夜、その翌朝に一度だけ、シンジは背中の牡丹を目の当たりにしたことがあった。 六華いわく、泥酔いしたシンジはその牡丹の蜜を吸おうとしたらしいが、当人はそのことを全く覚えていない。 「俺、蝶々、好きなんだわ」 シンジはちょっとどきっとした。 自分が好きなものを肌に刻んでほしいという、その言動に、何らかの期待を抱いていいものだろうか、なんて思ったりした。 「ガキん頃、夏休みに兄貴が田舎に連れてってくれて、虫取りに夢中になったんだわ」 ……またお兄さん関連か。 シンジはちょっとがっかりしたものの、ロックのウィスキーを一口飲み、自然な話の流れで六華に問いかけた。 「田舎って、ご両親の故郷とか?」 「ううん、なんかテキトーに。ザ・田舎みてぇな」 六華は普通に答える。 特に何ら表情を変えるでもなく、嫌いな匂いのする偽りの保護者達を思い出して不快そうにするでもなく。 父親である男は不動産業を順調に営んでいるようで。 第三の嫁をもらったそうだ。 第一の母親については、今どうしているのか、全く知らない。 最も新しい情報といえば「数年前に実家の何代目かの飼い犬チワワと楽しそうに散歩していた」だ。

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