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闇金事務所の恋愛事情-3
「……堕ちたところで息はできますから」
見知らぬ男に弄ばれてきた彼はそう言った。
彼は金のためにその身を差し出し、どぎつい欲望を剥き出しにされたひと時を軽薄なホテルの部屋で過ごしてきたばかりだった。
切れ長な瞳には嗜虐心を煽る虚ろな色香。
厭世的な濃い翳りを纏う、どこかストイックな雰囲気。
性的な飢えをとことん絞り出してやりたくなるような彼の名前は佐倉綾人といった。
「あ……!」
綾人の背中がぶるりと波打った。
奥まで自身の隆起で貫いていた彼の中がきつく、さらに熱く、締まる。
このままもっていかれそうだ。
危うい錯覚に襲われた黒埼はただでさえ鋭い眼差しを剣呑に尖らせ、綾人の腰を支えていた両手にぐっと力をこめて、共倒れを回避した。
夜、雑居ビル三階の一室、二人が住処とするコンクリートうちっぱなしのテリトリー。
家具がベッド一台のみという殺風景な寝室代わりの奥の部屋で綾人の掠れた呼吸がしばし繰り返された。
「はぁ……はぁ……」
支えられた腰だけを宙に浮かしてベッドに這い蹲っているという、なんとも悩ましげなポーズは視覚的にも愉しめた。
ぎちぎちと隆起に噛みついてくる肉壁の抱擁は直接的な快楽を下肢に産みつけてくる。
「…………あっ」
おもむろに背筋を撫で上げてやっただけで綾人の全身は致命的打撃でも食らったかのように跳ねた。
まだ微かに震えている肩越しに、ぎこちなく、背後に据わる黒埼へ視線を向けてくる。
「……黒埼さ、ん……」
「いったのか」
黒埼は上体を前に倒した。
片手をシーツに突かせ、もう片方の手を綾人の股間へ……。
「あ、ん」
掌に広がる生温かな粘り気の感触。
緩くしごいてみると、まだ芯をなくしていないペニスから小刻みに白濁が弾かれた。
「あぁ……だ、め……」
「まだ硬いな」
「あ……あぅ……」
「よく濡れてる」
互いの服は全てベッドの下でとっ散らかっていた。
月末、督促やら上への納金でばたついていたが、やっと一段落ついて飲みに行って。
住処に戻るなりタガが外れたように黒埼は綾人を求めた。
『久し振りだから……すみません、何回も達してしまうかもしれません』
無自覚エロ発言通り、綾人は何度も達した。
しごかれて、擦り合わせて、繋がって。
その度に快楽に従順に白濁した欲望を弾けさせた。
「あんた、ヌかないのか、俺がいない夜は」
「す、ぐ、寝てしまうので……っぁ、っぁ」
何度かしごいただけで、また、完全に硬くなる。
黒埼はまだ達していない。
久し振りの同衾をじっくりゆっくり満喫したいがため、射精感がせり上がる度に見事なまでのスルーを決め込んでいた。
「佐倉さん、顔」
精液で滑ったペニスをくちゅくちゅと愛撫されて呻吟していた綾人が切なげに歪む顔を黒埼に向ける。
黒埼は唾液で温もった唇に口づけた。
掌の内側でその先端を摩擦しながら口腔の微熱を舌先で掻き混ぜる。
「ぁ……っぅ……ふ」
綾人がかけたままにしている眼鏡がたまに黒埼の鼻先に当たった。
綾人にとっては少々きつい体勢だろう、しかも奥を貫かれたまま、身じろぎしただけで肉壁がごりごり擦られる。
「あ……っ黒埼さん……っ」
ずっと挿入れたままのペニスで奥を緩々と突き、濡れそぼつ先端を執拗に愛撫し、胸の突起も指の腹で細やかに撫でながら。
黒埼は綾人にキスを続けようとする。
「ぃ、や……だめ……」
「よくねぇか」
「いえ……あ……いいです……よすぎて……っん」
「よすぎて、なんだ」
「こ……壊れ……そうで、す……」
三十手前の綺麗な男がセックスで壊れそうだと涙目で縋ってくる。
罪深い性だな、俺もあんたも。
何度肌を重ねても俺は飢えて。
あんたはどこまでも俺を煽る。
「ひぁ……!」
黒埼は勢いをつけて数回、間をおいて綾人の奥を連打した。
皮膚が皮膚を打つ乾いた音が真夜中の静けさに大きく響く。
射精には至らなかったが空イキしたようだ、黒埼の手の中で綾人のペニスがびくびく脈打った。
目を閉じて唇を半開きにした無防備な表情が堪らない。
上体を起こした黒埼は綾人の向きを変えることにした。
仰向けにすると、ぐっと前のめりとなり、彼の両足を肩に引っ掛ける。
「っ、これ……深いところまで……」
「ああ、そうだな」
深いし、あんたのイイ顔がよく見える、佐倉さん?
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