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闇金事務所の恋愛事情-6

「ところで」 「はい?」 「シンジさん、いつ清八さんに会われますかねえ」 「え? セイハチさん……? ……あ」 いつぞやの回転寿司屋で交わした会話を思い出し、シンジは、内心ぎょっとした。 「彫り師のセイさんですよ」 あれ、あの時はお兄さん、やんわり反対してくれた気がするんだけど。 「いえ、あの、そのお話は」 「弟は早く貴方の肌に蝶を飛ばしてあげたいと息巻いていますよ」 「えー……と」 「弟のために彫っていただけるんですよねえ」 これって、ひょっとすると、雛を奪われる親鳥による仕返しなのかな? 俺、外敵扱いされてる……? 見えない翼に威嚇されているような心地でさすがのシンジも萎縮しているところへ。 愛しの雛が舞い降りてきた。 「しんちゃん、待たせたな、悪ぃ!!」 六華はシンジの隣にどさっと座った。 今までは兄の黒埼へ迷うことなく突き進んでいたのが進路を変えて。 かつて手の中で翅を休めていた蝶と同じ匂いに導かれて。 「怒鳴り散らして喉乾いた、これもらうぞ!」 客に出されていたお茶を一気飲みした弟に兄は言う。 「六華、もう帰っていいぞ」 「おう! 兄貴お疲れ、アヤさん明日もタコさんウィンナーつくれ、そして俺お疲れ!!」 デスクに戻り、背もたれに引っ掛けていたジャケットを羽織り、その拍子でペンや大事なはずの契約書をばらばら床に落とした六華。 一切気にもせずにシンジの腕を掴むと意気揚々事務所を退出していく。 「夜分に失礼しました」 かろうじて振り返ってシンジが告げれば、黒埼は、浅く頷いた。 「タコさんウィンナー?」 「アヤさん、あれだよ、あれ、男子弁当?」 「弁当男子ね」 「ああ、それそれ! 弁当に入ってた!!」 真夜中の冷気に首を窄める六華を隣にしてシンジは思う。 お弁当はさすがに無理だけど今度宅飲みする時、タコさんウィンナー、黒埼君に山ほど作ってあげよう。 綾人は六華が落としていったペンを元の場所に戻し、大事なはずの契約書をまとめ、黒埼に手渡した。 「俺達もそろそろ帰るか」 「はい」 空になった湯呑みを両手で持った綾人は微笑んで頷く。 「ところでタコさんウィンナーってなんだ」 「タコさんに見立てて切れ目をいれたウィンナーです」 「それくらい俺だってわかるぞ、佐倉さん」 「あ……私のお弁当に入れていたら、六華さんがかわいいと、とても気に入って」 「かわいい?」 「かわいくて食えない、食う奴は鬼だと言ってました」 黒埼は笑った。 こんなにも純粋な弟を掻っ攫っていく人間に腹いせの一つや二つ、十か二十、百、しても許されるってもんだろう。

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