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I fall into you-9
その日は朝から雪がちらついていた。
「ピザまん、うめぇ」
レンジで温めたピザまんとパスタでブランチを過ごすシンジと六華。
朝一番にシャワーを済ませたシンジと違い、そのままの六華、よって長めの金髪はゆうべよりしんなりしていた。
「黒埼君、お風呂溜めていいから入ったら?」
「寒ぃ。外、雪降ってんの。まじ、むり」
「雪見ながらのお風呂とか最高だと思わない?」
「あ?」
シンジはゆうべ居酒屋で六華に聞き損ねたことをやっと口にした。
「年末年始、休みが合えば、どこか遠出しない?」
「いきなり年末年始かよ」
「え?」
「メリークリスマスが抜けてんぞ!!」
「仕事じゃなかったの?」
ブランケットを頭からかぶってピザまんをぱくついていた六華は斜向かいに座るシンジに言う。
「せっかくのメリークリスマスだぞ、しんちゃんと特別な夜過ごさねぇでどーすんだ、こら」
「……どんな風に特別に過ごす?」
「焼肉かすき焼き」
六華の答えにシンジは思わず笑ってしまった。
綾人はまだ眠っていた。
用事があるため身支度を済ませた黒埼は念入りに暖めた部屋の中、欠かせない加湿器の水をたっぷり足して、静音になっているかどうか確認すると。
裸身のまま革張りソファの上で毛布に丸まっている綾人の寝顔も確認した。
服を着せてやってもいいのだが起こしてしまうのは憚られ、結局、毛布をかけるまでに留めておいた。
冷蔵庫には今日一日分の食料も詰まっていたし、ミネラルウォーターのストックもあった、わざわざ寒い外に出る必要はない、ここでゆっくりしていられるだろう。
「おやすみ」
整った寝顔に向けてそう小さく呟き、サングラスをかけた黒埼は通路に面するドアへ向かう。
「行ってらっしゃい」
ドアノブを掴んだまま肩越しに振り返ると綾人と目が合った。
貴方になら。
お前になら。
どこまで落ちようとも構わない。
end
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