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社会人編 第1話
ーーー十七年後
都内の高層ビル群は、今日も何食わぬ顔でそびえ立つ。
蒼の行方がわからなくなった後、懸命に蒼を捜した。学生のうちは自由になるお金もなく、社会人になってすぐ探偵に依頼した。藁をも縋る思いだった。しかし、探偵が提出した報告書には、目を疑う文字が記されていた。
沢圦蒼 逝去 享年二十一歳
それから、紘一は一切蒼のことを周りに語らなくなった。蒼と過ごした記憶をどこかに置いてきたように。
人生をやり直せるとしたら、間違いなくこう答える。高校三年生の文化祭、と。そしたら、自分の前から蒼がいなくならない選択肢を必ず選ぶ。ずっと傍にいて、それから……。考えるだけ、無意味なのだ。時間を戻す方法なんてこの世に存在しない。紘一の時間は、あれからずっと止まったままだ。
「先生。……先生……! 結城先生!」
自分を呼ぶ声に我に返る。
考え事をしていたらしい。
訝しげな表情で書類を持った学年主任が、真横に立っていた。
紘一は大学卒業後、高校の教師になった。今は一年一組の担任をしている。
「結城先生、実は隠し子がいる……なんてことないですよね?」
真面目な学年主任が真顔で突拍子もない発言をする。
「は? いないですよ。どうしたんですか? 突然」
「ハハハハハ、そうですよね。すみません。今度の転校生、あまりにも結城先生に似ていたもので。先生のクラスで受け持ってもらいますので、よろしくお願いしますね」
学年主任が手渡した転校生の資料に目を通す。
そこには、自分と瓜二つの転校生、和泉 光 の写真が添えられていた。
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