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社会人編 第3話

 藤堂の身体から、一気にオメガの匂いが放出された。 「!!!」  蒼の時より、遥かに濃いフェロモンに、自分の力で立っていることが出来ず、近くの長机に手をつく。  額には大量の汗が噴き出し、脚に力が入らない。 「結城先生。俺、入学した時からずっと先生のこと、好きなんです。番になってくれますよね?」  甘い猫なで声に、紘一は首を横に振る。 「くっ……」  理性を何とか保とうと、紘一は必死だ。  前は相手が最愛の蒼だったから良かった。しかし今回は、何の感情もない生徒の一人だ。  そんな紘一の想いとは裏腹に、アルファの本能が、紘一の理性を上回るのは時間の問題だった。  すぐにここから逃げなくてはいけない。今すぐに。  一歩、また一歩と、藤堂は紘一との距離を縮める。藤堂も歩くのがやっとのようだ。  藤堂の指先が、あと数センチで紘一に届きそうになった時、生徒会室の扉が開かれた。 「あんた!! 何やってんだ!! 早く!!」  力強い腕に引っ張られた。  足がもつれ上手く走れないが、その人物に引きずられるように、生徒会室を脱出した。   匂いが届かないところまで走ると、やっと自分を助けれくれた相手を認識した。 「…………和泉……光……?」  光は掴んでいた腕を離すと、紘一を真っ直ぐに見た。写真で見るよりも、遥かに自分に似ていた。 「しっかりしろよ、あんた教師だろ?」  生き写しのようにそっくりでも、光はそれを気にとめる様子はない。しかも、教師と認識しているにも関わらず、敬語を使う気はなさそうだ。 「あ、あぁ……。助けてくれて、ありがとう」  ひとまず、お礼を述べたが、興味の矛先は違うところにあるようで、光は考え事をしているようだった。 「ところで、結城先生に会いたいんだけど、今どこにいるか知ってる? さっき職員室に行ったらいないって言われて捜してんだけど」 「結城は私だが……」 「マジか……こんな頼りないやつ……」  心の声がダダ漏れたところで、失敗したと光は両手で口を塞いだ。 「何か言ったか?」 「な、何も」  軽口を叩いていた光が、急に神妙な顔つきになった。 「先生……オレの親、和泉……いや、沢圦蒼のこと……知ってますよね?」  幼なじみの沢圦蒼。自分に似ている和泉光。その二人が親子だと。突きつけられた言葉に、和泉光は自分の息子だと確信したのだった。

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