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社会人編 第4話
「蒼とは幼なじみだ。家が近所で……でも蒼が高校一年の時に引っ越してから、連絡は取ってない」
「なんだ……じゃあ、オレの父親の可能性は低いか……」
ここにもし百人いたら、百人全員口を揃えて紘一と光が親子だと言うだろう。
しかし、こんなに至近距離にいる光は紘一のことを父親だと感じていない。
「オレは、……父を絶対に許さない。父が母を番にしてたら、今こんなことには、なっていなかったのに……」
自分が父親かもしれないと、名乗りでるタイミングを失ってしまった。光から迸る、父への強い恨み。
「……蒼がどうかしたのか?」
探偵の書面上の報告では蒼は既に死んだことになっている。しかし、保護者の欄に記載があったことを考えると、生きているのは明白だった。探偵が対した調査もせずに、適当にでっち上げたのだろうか?
様々な疑念が頭に浮かんでは消えていった。
「…………何でもない。他人に伝える話でもないし。じゃ、先生。初登校は来週なんで、よろしくお願いします」
深々と頭を下げ、光は来客用の昇降口に歩き出したのを止める術はなかった。
帰宅途中、佐久間から着信があった。紘一が勤める高校にほど近い大学病院で、勤務医として働いている。番とは長年想いがすれ違ったままで、本当の意味で番になったのは、佐久間が大学を卒業した二十四歳の時だったと後になって聞いた。それが、今や三児のパパだ。
「もしもし」
「佐久間です。今お話ししても大丈夫ですか?」
「あぁ……どうした?」
「先日、ある疾患で当院を受診した男子高校生がいました。その彼があまりにも結城さんに似ていたもので、似てる知人がいると話したところ、どこに行ったら会える? と聞かれたので、結城さんのことを伝えたんですが……すみません。勝手に教えてしまって。もしかしたら結城さんのところに行くかもしれないと思いまして、連絡しました」
「…………その患者は和泉光か?」
「え? ええ。もしかして、お会いになりましたか?」
「今日、会った。来週からはうちの生徒だ……あと……蒼の子供だ……」
「…………結城さんにはお伝えしづらいのですが……ついさっき、沢圦君……今は和泉という苗字でしたが、入院していることが分かりました。オメガ専用の病棟で患者は勿論ですが、医師も看護師も、見舞い客もオメガでないと入れませんし、私には何の病気かの閲覧権限もありません……ただ……」
佐久間が言葉を詰まらせた。
「何らかの理由で発情が抑制剤などでコントロールできないオメガを収容している、という噂を聞いたことがあります。……週末、優斗に様子を見に行ってもらおうと思いますので、またご連絡します」
「あぁ、ありがとう」
オメガしか入ることが許可されない病棟。それは勿論、蒼の息子の光も会うことが出来ない、ということを意味していた。
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