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社会人編 第7話
「蒼、文化祭の前のこと覚えてるか?」
蒼を抱きしめたまま、紘一がぽつりと呟いた。
「?」
「蒼にモーニングコールのお礼をしたいから、考えておいてっていう話」
すでにあれから十数年経っていたが、蒼は覚えてるよ、と顔を上げ微笑んだ。
「文化祭の日に言うつもりだったんだ。お礼に、一日でもいいから、僕と付き合ってくださいって」
紘一は思いも寄らない希望に、思わず吹き出した。
「あ! 紘兄ひどい!」
口を尖らせ拗ねる蒼は、高校の時と変わらないあどけなさがあった。
「一日なんて言わず、一生傍にいるよ。今まで一緒にいられなかった分まで、一生大切にするから…………蒼、俺の番になってほしい」
蒼は瞬きを何度かすると、自分の頬を摘まんだ。
「痛っ!!」
手加減なしで摘まんだのか、少し赤くなった頬をさすりながら、涙を浮かべた。
「夢じゃないんだ……。嬉しい……。どうしよう……。ドキドキしてきた」
蒼を眺めながら、紘一も嬉しさを噛み締めていた。死亡したと一度は伝えられたら蒼が生きていて、自分の腕の中にいる。泣いたり笑ったり、コロコロと表情が変わる蒼を心から愛おしいと思う。
「今度発情期が来たら、必ず番にするから」
蒼のうなじをするりと撫でた。
蒼が返事をするより早く、紘一の背後から思わぬ声が聞こえた。
「その声、もしかして結城先生?」
「光!」
紘一の背後にいた人物に、いち早く気づいたのは蒼だった。
「番にするってどういうこと? やっぱり結城先生がオレの父親だったってこと? 今まで一度も母さんに会いに来なかった奴が、今更何言ってんだよ!」
蒼から身を離した紘一の胸ぐらを光が掴んだ。
「あんた、最低だよ。今までの苦労も何も知らないくせに」
今の光にどれだけ弁明しても、無駄だ、と紘一は思い、口を噤んだ。
「オレは絶対に認めない。あんたが父親なんて」
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