22 / 30
社会人編 第8話
蒼との再会後、一ヶ月が過ぎた。あれから蒼の発情期はまだ来ないーー。そして、息子の光に父親として認められていないままだ。
「光様ーー! こっち向いてーー!」
今日も黄色い声が飛んでいる。体育館だったり、グラウンドだったり、場所は様々だが、黄色い声援の矛先はいつも和泉光だ。
「和泉は本当に人気がありますね。転校してきてまだ一ヶ月ほどなのに」
職員室からグラウンドを眺めながら、学年主任が呟く。その呟きに紘一が応じた。
「そうですね」
自分の子供、というのは学校には伏せたままだ。
グラウンドでサッカーに興じている光に、熱い視線を送っている生徒の中に、苦虫を噛み潰したような表情をした、生徒会会長の藤堂の姿があった。どこで手に入れてたのか分からないが、発情誘発剤などという怪しい薬を所持しており、紘一は他の教師と情報共有しながら藤堂の動向を探っていた。
「和泉。ちょっといいか?」
グラウンドから戻って来た光を、昇降口で待ち伏せる。ここ最近の紘一の日課だ。
「……………………イヤだ」
かなり間が空いた後、拒絶の言葉だけが、光の口から滑り落ちる。
「先生今日もフラれてやんのー! ウケるー!」
光と一緒にグラウンドから戻ってきたクラスメート達が、毎日繰り返される紘一と光のやり取りに口を挟む。今のところ、紘一は全戦全敗だ。
紘一は人知れずため息を吐いた。
その姿を藤堂が物陰から見つめていた。
ともだちにシェアしよう!