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社会人編 第9話
「結城先生サヨナラー!」
「先生また明日!」
ホームルームを終え、職員室に向かう紘一に生徒が口々に挨拶をする。
「気をつけて帰るんだぞー!」
ホームルームの時、和泉光の姿が見当たらなかった。鞄は机の横に残されたままだったのを考えると、校内にいるのは間違いないだろう。
光は運動神経も抜群で、成績も良いが、部活には入っていない。
生活費のために、光はバイトを掛け持ちしており、勉学に影響のない範囲で、と学校からの許可はおりたが、光はいつ寝ていつ勉強しているのか分からないぐらい働いているようだった。ずっと蒼を守ってきたのは、光なのだと痛感させられる。
日誌と筆記用具を職員室の自席に置くと、椅子に腰を下ろした。
深く息を吐く。
蒼に会えた喜びは、どう表現したらいいか分からないぐらいだ。しかし、それと同時に十七年前に番にならなかった後悔と、存在を知らなかったとは言え、父として光に何もしてこなかった罪の意識に苛まれる。
今日は顧問をしている陸上部が休みのため、蒼に会いに行く約束をしていた。一時的に退院許可が出たため、今日は病院に迎えに行き、その後、自宅に送り届ける手筈になっている。
鞄を持ち、早々に職員室から飛び出した紘一を引き止める声があった。
「先生ー! 和泉が用事があるから教室まで来て欲しいって」
紘一のクラスの一人だった。無視を決め込んでいた光と話せるのなら、行かないという選択肢はない。
「わかった。ありがとう」
急いで教室に向かった。
教室の前に着いたとき、違和感があった。教室のドアが閉まっている上に、カーテンも閉まっている。そして、微かな匂い。
「クソが!!!」
光の怒号が教室の中から響いた。光が中にいるのは確かなようだ。
「結城先生はそんな汚い言葉は使いません。同じ顔で、先生の品格を下げないでください」
会長の藤堂の声だ。
昼休み、光を凝視していた藤堂の姿を思い出す。
「は? 品格? バッカじゃねぇの? 勝手にあいつを美化してるだけだろ!」
パシッと何かを叩く音がした。
紘一は躊躇なく、扉を開いた。
教室の中には、想像通り光と藤堂がいた。光は両手を机に縛り付けられていた。
「『和泉』の名前を使ったら、来ると思ってました」
「ここまでして何が望みだ。藤堂。番になることか」
紘一の怒りと脅威を、藤堂は肌で感じた。
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