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社会人編 第10話
「ええ。勿論」
藤堂の返事に、紘一はわざとらしく、大きく溜め息を吐いた。
「会長のくせに頭が悪いのか? 呆れるよ。アルファはオメガと番になっても、一方的に解消出来る。番を解消されたオメガは、一生誰とも番になれないし、発情期に苦しむことになる」
いつもの紘一からは考えられないような、残酷な言葉の数々が吐き捨てられた。
藤堂は何も言えず、ただ紘一を見つめるだけだった。
「俺は藤堂には全く興味がない。もし番になってもすぐに解消する。その場で」
鋭い視線で断言した。
藤堂が反応しないのを確認すると、紘一は光の傍に屈み、拘束しているビニール紐を解き始めた。
「今まで手に入らないものなんか、何もなかったんです。欲しいものは手に入れる。先生が手に入らないんだったら! 先生との子供だけでも!」
拘束を解かれた光は、立ち上がり藤堂に反論した。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ! オメガが一人で子供抱えて生きていけるほど、世の中そんな生易しいもんじゃねぇんだよ!」
光自身、小さい頃から今もなお経験していることだ。紘一の心にグサリと刺さる言葉だった。
「うるさい!」
藤堂は人に自分の考えを否定されることなく、生きてきたのだろう。激昂し制服のポケットから何かを取り出すと、光に向かって走り出した。
「危ない!」
光を突き飛ばした紘一の太腿に、注射が突き立てられた。
「……くっ……何の薬だ……」
全身から急激に力が抜けた。
視線の先の藤堂は、ただひたすら首を横に振るばかりだ。
体内に打たれたのは、死への片道切符ーー。
「光、お前に会えて良かった……。蒼を頼んだぞ……」
片膝をつき、力を振り絞って光に想いを伝えると、紘一は床に倒れ伏した。
「先生? ……嘘だろ? おい! 何か返事しろよ!」
揺すっても、紘一は目覚める気配はない。
「おい!! 親父!!!!!!!!」
光の声が、教室に虚しく響いた。
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