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社会人編 第6話 ー蒼編ー
「あなたは確か……」
蒼は、優斗の顔をじっと見つめながら、古い記憶を辿っていた。
「佐久間優斗と申します。あなたが高校生の時に生徒会だった、佐久間翔太の番です」
「あ、あぁ。そうだ。佐久間先輩の……。どうしてここに……」
「どうしてと言われると、夫に頼まれたから、ということになりますが、……実際はずっと蒼さんのことを想っていた、結城さんのために来ました」
「紘兄……?」
優斗はゆっくりと首肯する。
「ここにはオメガしか入れないため……病棟の外で待っているんです」
優斗は窓際に移動すると、カーテンを開ける。
蒼は素足のまま窓に急いで歩み寄ると、紘一の姿を肉眼で捉えた。
蒼の病室は三階で、はめ殺しの窓から届かないとわかっていても、思わず叫んだ。
「紘兄……!!!!!」
声が届いたわけでもないのに、紘一は蒼を仰ぎ見た。一瞬驚いた表情を見せたが、優しい表情になり、蒼に大きく手を振った。
大粒の涙をポロポロと流しながら、蒼は自分の判断が間違っていたのだと、思い知らされた。
紘一は自身の子供を何も言わずに産んだことを、責めるような人間ではない。だから、あの時大家さんが言ったように、早くに頼れば良かったのだ。
ストーカー事件以降、精神的にも肉体的にも追い込まれた蒼は体調を崩すことが多くなった。
定期的に来ていた発情期も突発的に来るようになり、その原因の特定のために、一年の大半は入院をしている。
蒼はいてもたってもいられず、病室を飛び出した。
「紘兄……紘兄!!!」
「蒼!」
エントランスから走って来た蒼を、両手を広げて受け止める。
「ごめんなさい。ごめんなさい。紘兄。子供………紘兄の子供……勝手に産んで……」
紘一の胸の中で、小さな肩を震わせながら、蒼は何度も謝罪を口にした。
「蒼、謝ることないんだよ。俺は蒼がこうして生きていてくれただけで、嬉しい。ありがとう。蒼」
紘一は蒼を抱きしめていた腕に力を込めた。
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