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社会人編 第12話
「うっ……」
身体が鉛のように重い。
「気づきましたか? 結城さん」
うっすらと開けた瞳には佐久間の姿と、太陽光が差し込んだ。
「あ、あぁ……。俺、生きてるんだな……。良かった……」
心底ほっとした様子で、紘一は脱力した。
「たまたま、学校に行っていて本当に良かったです。処置も早くできましたし、後遺症の心配もありません」
ベッドの上部を起こすために、佐久間がリモコンを操作する。
再来月開催される高校生のための外科手術体験セミナーの説明に、医師代表として偶然紘一の勤務する高校に訪問していた。
「しかも、内偵に来ていた高瀬さんと鉢合わせするなんて」
佐久間が視線を送った方向に顔を向けると、そこには高瀬が立っていた。
「……生徒が持ってた例の薬の件か……。どうだったんだ?」
高校の時からの付き合いである高瀬は、現在麻薬取締官になっていた。
藤堂が持っていた発情誘発剤は市販薬でもなければ、病院で処方されているというのも耳にしたことがなかった紘一は、藤堂に情報提供をしていた。
「それが、結城のとこの生徒に薬を売ってた男を逮捕したけど、以前沢圦くんを刺して傷害罪で追われてた男と同一人物だったわけ……」
「あいつか……どこまでも外道な野郎だな……。でも逮捕されてよかった」
眉間に皺を寄せ悪態を吐く。
あの男は一度は教員になったものの、どこかで道を踏み外したらしい。
「さ、私達の話はこれくらいにして、彼らを呼んできましょう。心配していることですし」
「そうだな……。結城、またな」
佐久間と高瀬は必要最小限のことを伝えると、病室から連れ立って出て行った。
二人が去った後、しばらくして病室のドアが勢いよく開いた。
「よかった……。本当によかった……」
入ってきたのは光だった。
目は充血し、泣いたのか、まぶたは腫れていた。
「光、悪かった」
その痛々しい光の姿を見て、紘一は深々と頭を下げ、謝罪した。
「生まれてから今まで、父親らしいことを何一つしていないばかりか、今回もこんなことに巻き込んで……。父親として認めてもらうどころか、恨まれて当然だ」
「……オレはもう恨んでなんかいない。これから、そばにいて母さんとオレを幸せにしてくれるんだろ?」
光の言葉に紘一は頭を上げた。
光は少し気恥ずかしそうに笑っていた。
「あぁ。ずっとそばにいる」
蒼は病室の外で、紘一と光のやり取りを聞いていた。
「よかった……」
ほっと胸を撫でおろした瞬間だった。
落ち着いた気持ちとは裏腹に、鼓動が早くなった。
「…………発情期……」
蒼はずるずると、その場に座り込んだ。
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