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社会人編 第13話
扉の向こう側で、物音がした。
「蒼は? 一緒じゃなかったのか?」
「あれ? 病室の前まで一緒に来てたのに……」
「!!!! この匂い……」
紘一は鉛のように重い身体を起こすと、裸足のまま鈍い動作で病室の扉を開ける。
扉の前にへたり込んでいる蒼を見つけると、屈んで肩を揺する。
「蒼!」
荒い呼吸を繰り返し、額には大粒の汗が浮かんでいた。
オメガの匂いに、近くの病室がざわめき始める。
「光! 蒼を病室の中に運んでほしい」
後遺症はなかったが、紘一は本調子ではない。紘一の変わりに、光は俊敏な動きで蒼を病室の中へ運び込むと、ベッドの近くに設置されているソファーに横たえた。
「母さんは副作用がきつくて、抑制剤の使用が禁止されてる。……ここからじゃオメガの病棟に行くのは無理だし……」
光は焦った様子で、まくし立てる。
「光、落ち着け」
「大丈夫か? 蒼」
紘一の声は届いているようで、蒼は頷くとゆっくり目を開ける。
「紘兄……。僕と番に……なってくれるんだよね?」
紘一が目を細めて微笑んだ。
「ああ」
二人のやり取りを見て、嬉しそうな表情で光はそっと病室を立ち去った。
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