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高校生編 第4話

 文化祭の実行委員会後、翔太は早々に業務を切り上げ、昇降口に向かっていた。 「やめてください!!」  悲鳴にも似た声に、翔太は足を止め、声のした方向に目を向ける。 「ちょっとぐらい良いだろ、沢圦」  その後に続いた言葉に不穏なものを感じ、声のした美術室の扉を勢い良く開く。そこには円らな目いっぱいに涙を溜めた沢圦蒼と、美術部の顧問がいた。 「沢圦くん、会長が呼んでいましたよ」  冷ややかな声音だった。  勿論、紘一が蒼を呼んでいるという事実はない。 「は、はい! すぐ行きます!」  脱がされそうになっていた制服のブレザーを正すと、蒼は近くにあった鞄を手に取り翔太に駆け寄る。 「では、先生。私たちは失礼します」  声よりも冷ややかな視線を向けると、会釈をし、開けたときと同じように勢い良く扉を閉めた。 「あの、……ありがとうございました。助かりました」  涙をブレザーの袖でゴシゴシと吹くと、蒼は翔太に深々と頭を下げた。 「いえ、何もなくて良かった。……あなたは、今後出来るだけ会長と一緒にいた方がいい」  不安そうな面持ちの蒼と連れ立って生徒会室に引き返す。 「あれ? 佐久間お前帰ったんじゃ……。ん? 蒼?」  生徒会室に残っているのは紘一だけだった。翔太のうしろにいた蒼に気づくと、異変を感じ取り眉間に皺を寄せる。  少しの変化も見逃さないのは、幼なじみだからか好きな相手だからかは不明だが、紘一は翔太に何かを耳打ちされると、わかった、とだけ返事をした。 「蒼、もうすぐ帰れるから、ちょっと待っててくれるか?」 「う、うん」  翔太は二人を見届けると、そっと生徒会室から姿を消した。

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