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高校生編 第5話
ミッション:一緒にいる時間を増やす
『朝の挨拶、会長の当番の日は、私が引き受けます。なので会長は出来るだけ沢圦くんと一緒に登下校してください。……それから、美術部の顧問にはくれぐれも注意してください』
翔太が紘一に伝えた言葉だ。
紘一は一睡もせずに、ベッドの上で考え事をしていた。美術部の顧問は今年の四月に産休の教師の変わりに赴任してきたばかりだ。三十代前半のベータの男性教師で、悪い噂などは今まで聞いたことがなかった。
携帯のコール音が鳴る。蒼からだ。
「もしもし、おはよう」
『今日は早いね! もう起きてた?』
いつもどおりの蒼だった。いや、いつもと同じように振る舞っているだけで、かなり無理をしているのかもしれない。
「蒼、今日は家に迎えに行く」
『え? 朝の挨拶、当番じゃないの?』
あぁ、と軽く返事をし、またあとで、と伝えて電話を切った。
「蒼は文化祭の美術部の出展には何か出すのか?」
最寄り駅まで約十分。歩幅の狭い蒼に合わせながら、紘一は何気なく美術部の事を聞く。
「うん! 今頑張って仕上げてるところ。紘兄には絶対観て欲しいんだ」
蒼は小さい頃から絵を描くのが好きだった。特に人物画を描くことが多く、昔は紘一も被写体になっていたが、最近はその機会もめっきり減っていた。
「わかった。必ず観に行くよ」
お化け屋敷に行くのは無理そうでも、美術部の作品は廊下に展示されるので、巡回中に観ることも出来るだろう。
「約束だからね!」
指切りを要求するように蒼が小指を出す。その小指に紘一は自分の小指を絡ませた。
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