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高校生編 第8話
人生の岐路。それは受験だったり就職だったり、はたまた結婚だったり。そこで、人は必ず選択をする。この学校に入りたい、この企業で働きたい、この人と一緒にいたい。
選択を失敗したと後悔しても、後戻りは出来ない。時間と同じ、ただ前へ進むのみ。
もし番になったのが、誤りだと思っても、撤回する術はないーー。
文化祭当日。
紘一は何度も出る欠伸を噛み殺しながら、翔太と連れ立って教室棟の巡回をしていた。
単調な電子音が耳に届く。
翔太が自分の携帯を確認すると、慌てた様子で応答する。
「はい。…………え? 学校に来てる? そこから動かないでください! すぐ行きますから!」
いつも冷静沈着な翔太が動揺しているのは、かなり珍しい光景だった。
「結城会長、すみません。ちょっとだけ抜けさせてください」
紘一が頷くと、すぐさま来た道を足早に戻って行った。
「美術部の出展か」
しばらく進むと蒼に絶対観に行くと約束した美術部の作品が、廊下の壁に所狭しと並んでいた。
一歩ずつゆっくり歩きながら蒼の絵を探す。
ある場所で、紘一は足を止めた。
プレートには「大切な人 一年 沢圦蒼」と記載されているにも関わらず、作品が飾られていなかったのだ。うっかり展示を忘れたのだろうか。周りを見渡しても、他に抜けている作品はなかった。どうして蒼の作品だけがないのか理由がわからず、しばらくそこから動けずにいた。
背後の教室で、ガタンと物音がした。
文化祭では使用されていないはずの、二年三組だった。
引き戸の取っ手に手をかける。
ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。仄かに香るその匂いが、アルファを狂わせる、オメガの匂いだということに気づかず、紘一は扉を開けたーー。
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