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第9話

「じゃ、じゃあ(セブン)は、外に出たら何かしてみたいことはあるか?」  (フォウ)は無理矢理話題を変えた。これ以上試験の話をしたら、どんどん雰囲気が険悪になりそうだったからだ。  (セブン)は軽く鼻を鳴らして、答えた。 「そんなの考えたこともないね。僕にとっては、無事に卒業することが全てなんだ」 「まあ今はそうかもしれないけどな。でも、『卒業=ゴール』ってわけじゃないだろ? 卒業した後が本当のスタートだ。憧れているものとか、やってみたいこととかないのか?」 「……だからないって言ってるじゃん。そういうあんたは、どうなわけ?」 「俺か? 俺は七色の虹を見てみたい」 「……虹? そんなの、ホースで水まきしてればいくらでも見られるよ?」 「そういうのじゃなくて、もっと大きいヤツだよ。雨が降った後にたまに出来る自然な虹さ。図鑑で見たんだが、すごく綺麗で感動するらしい」 「ふーん……」 「あと、本物の太陽を見てみたいな。朝陽が昇ってくる瞬間とか、紫色の夕暮れとか、満天の星とか。雨や雪も経験してみたいし、雷も見てみたいんだ」 「……あ、そ。なんか簡単でいいね。空見上げてるだけで叶いそう。海で泳ぎたいとか、そういうのはないんだ?」 「ああ、海か。もちろん行って泳いでみたいよ。ただの水じゃなくて本当にしょっぱいらしい。沸騰させれば塩ができるよな」 「そんな塩作るより、買ってきた方が早いと思うけど」  呆れながらも、(セブン)はちょっと笑ってくれた。  (フォウ)も明るく笑いながら、言った。 「無事に卒業できたらさ、一緒に虹を見に行こうぜ? 俺、地図苦手だから、代わりにお前が地図見てくれよ。それで、ついでに海まで旅しよう。な?」 「だから、卒業できるのは一人だけだって……」  と、(セブン)は言いかけたが、途中で口をつぐんでこう言い直した。 「……まあ、つきあってやってもいいけど。(フォウ)は鈍臭いから、僕がいないと夜道も歩けないもんね」 「そうだな、ありがとう」  この他愛のない(セブン)とのやり取りが、(フォウ)は一番好きだった。

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