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第10話

 三ヶ月前の出来事を思い出し、ズキンと胸が痛くなった。既に何発か撃たれているが、それよりもずっと痛くて苦しい。  こんな試験が行われるとわかっていたら、最初からあんなこと言わなかった。叶わない夢なんて語らなかった。「一緒に虹を見に行こう」だなんて、そんな虚しい夢……。 「早く終わりにしようよ、(フォウ)……。あとはあんた一人だけなんだからさ」 「っ……!」  また近くを銃弾が通過していった。  (セブン)がこちらを狙っている。全身から殺気を漲らせ、躊躇いなく引き金を引いてくる。 「『ミハエル・ヴェルトマー』は二人もいらないからね」  その通りだ。『卒業』できるのはたった一人。生き残った一体だけが『ミハエル・ヴェルトマー』として認められる。どちらかが死ぬまで、この試験は終わらない。 ((セブン)、俺は……)  公爵の息子になりたいと思ったことはない。だけど、ゲノム学園の中で一生を終わらせるのは嫌だった。  あの壁の向こうには、(フォウ)の知らない世界がたくさん広がっているのだ。それを(セブン)と一緒に見に行きたかった。それが偽りのない(フォウ)の願いだった。 (一人で空を見上げても、ここで見ていた天井と変わらないだろ……)  (フォウ)は意を決して大木の影から飛び出した。  待ってましたと言わんばかりに(セブン)がこちらを狙い撃ってきた。(フォウ)も思い切って何発か撃った。 「っ……!」  数発命中した手応えがあった。血と硝煙の匂いが鼻をついた。  けれど、それでも(セブン)は止まらなかった。真っ直ぐにハンドガンを握ったまま、こちらに向かって何発か撃ってくる。数発は肩や腹にめり込んだ。  もう一度大木に身を隠そうとしたのだが、足元に伸びていた木の根に躓き、その場に転倒してしまった。  その隙を見逃さず、(セブン)が馬乗りになってきた。銃口を額に突き付けながら、淡々と聞いてくる。 「……あんたにはいろいろ世話になったからね。最期に何か言う事はある?」 「…………」  (フォウ)は霞んだ目で空を見上げた。偽物の空ですら、今は森の木々に隠れてよく見えない。 (最期、か……)  (セブン)(フォウ)は全く違う人間だ。同じなのは遺伝子だけ。(フォウ)が不得意なことでも(セブン)にはできる。逆もまた然り。  だから……。

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