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奉納舞 2

「うーん、けど、舞楽はだいたい男は面をつけることになってるんですよね。  女性や子供の舞だとつけないのもありますが」 「そういえば、神主さんには巫女さんの舞みたいなのはないの?」 「ああ、神楽舞(かぐらまい)ですか? ありますよ。  えーと、これですね、人長舞(にんちょうまい)」  カタログのページをめくり、みんなに人長舞の装束を見てもらう。 「あら、これ素敵ね」 「白くて神聖な感じで、中芝さんに似合いそう」  人長舞の装束は平安時代の武人風とでも言えばいいだろうか。  腰に太刀も履いて、身が引き締まりそうな装束だ。 「人長舞は見た目地味な舞ですけど、奉納舞としてはいいと思います。  ただ、装束を借りられるかなあ」  舞楽の装束なら雅楽部のOBのつてで借りるあてがあるが、人長舞の装束を持っていそうな人に心当たりはない。  そもそも人長舞をやっている神社自体が少ないと思う。 「ああ、装束でしたら借りるあてがありますから大丈夫ですよ」  僕が困っていると、それまで黙っていた倫宮司がそう言って僕に目配せしてきた。  あ、神通力で出してくれるつもりなんだ。  倫宮司は僕たちが結婚式を挙げた時に、神通力で正服一式を用意してくれたことがある。  きっと今回の装束も、借りてきたということにして神通力で出してくれるつもりなんだろう。 「じゃあ、人長舞にしますか?  学生の時にちょっと練習しただけですが、そんなに難しくなかったので、夏祭りまでに覚えられると思いますから」  そう言いながら、僕はつい、未練がましく舞楽の装束のページを開いてしまう。  今回僕の舞は皆さんの篠笛のついでなので、人長舞なら前座にちょうどいいとは思うが、どうせならせっかくだから蘭陵王をやりたかったなとも思う。 「中芝くん、もしかして蘭陵王がやりたかったんですか?」  僕の様子に気づいたらしい宮司が、そう聞いてくる。  さすがにこの人に隠しごとは出来ないらしい。 「ええ、実は蘭陵王は学生の時に雅楽部の発表会で舞ったことがあるので、久しぶりにやれたらいいなと思ったものですから。  けど、人長舞もなかなか舞う機会がない舞ですから、これはこれでいいと思います」 「そういうことですか。  でしたら両方やればいいのではありませんか?」 「ええ?  いえ、さすがに両方はやるのは時間取り過ぎだと思いますし、それに体力的にも2曲は厳しいかと」 「ああ、時間なら気にしなくてもいいよ。  神社で場所を借りられるんなら、商店街のステージみたいに後の人のことを気にしなくてもいいから」  総代役員さんがそう言うと、倫宮司も口を開く。 「体力的に、と言いますけど、中芝くん若いんですから、2曲くらい大丈夫じゃないですか?」 「えー……」  倫宮司の言葉に、僕は思わず不満げな声を出してしまう。  宮司は人ごとだから気楽に言ってくれるが、人長舞は地味だが腰を落とす動作が多くて膝に来るし、蘭陵王は動きが派手な上に装束が重くて大変なのだ。  どちらかならともかく、一度に両方やるのは厳しい。 「まあとにかく、一度試しに練習で2曲舞ってみてはどうですか?  やってみて厳しそうなら人長舞だけにすればいいんですから」  宮司がそう言って、篠笛の皆さんもそれに賛成したので、結局その後の打ち合わせは僕が2曲とも舞う予定で進められた。

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