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奉納舞 3

 翌日、仕事が暇な時をみてネットに上がっていた動画で2つの舞をおさらいした僕は、夕食の後、倫宮司に付き合ってもらって拝殿で練習してみることにした。  まだ完全に覚えられたわけではないが、とりあえず今日は2曲舞う体力があるかどうか確認することが目的なので、間違えても続けて最後まで舞ってみるつもりだ。 「では、お願いします」  宮司に合図して、最大音量にしたスマホで動画を再生してもらい、その音に合わせて舞う。  まず1曲目は簡単な人長舞の方だ。  何ヶ所か怪しいところもあったが、なんとか最後まで通して舞うことができた。 「うーん、やっぱり体を動かして練習しないとちゃんと覚えられないですね。  あ、少し休んだら蘭陵王の方もやってみますね」  そう言って僕が水分を補給して汗を拭いていると、倫宮司がこちらに歩いてきた。 「どうかしましたか……えっ…んんんーっ!」  なんと倫宮司は僕のあごに指をかけたかと思うと、あろうことか唇を重ねてきた。  それもただ重ねるだけじゃなくて、ばっちり舌を入れる濃厚なキスだ。 「……ちょっと宮司、なにするんですか!  ここ、拝殿ですよ!」  僕の猛烈な抗議も倫宮司はさらりと流してしまう。 「まあまあ。  それよりも、これでもう休まなくても大丈夫だと思うのですが、どうですか?」 「え……あれ、ほんとだ。  体が楽になってる……」  さっきまで1曲舞った疲れが少しあったのに、今はむしろ舞い始める前よりも体が軽くなっている気がする。 「え、なんで?」 「まあ、唾液も体液の一種ですから」  そう言われて僕は、神使である倫宮司の体液には即効性の体力回復効果があると言う話を思い出す。  毎晩倫くんに抱かれているのに翌朝まで疲れが残ったことがない、という形で、僕はいつもその効果を実感していた。 「……あ、もしかして、それで2曲とも舞っても大丈夫だって言ったんですか?」 「ええ。  当日はまず人長舞を舞って、皆さんが篠笛の奉納をしている間に着替えて蘭陵王、というスケジュールですよね。  着替えは私が手伝うことになりますから、その時にさっきのように私の体液を分けてあげれば、体力的には問題ないと思いまして」 「えっ……いえ、でも、その、本番当日にキスするというのは、ちょっとどうかと……」 「けど、拓也は蘭陵王も舞いたいんですよね?  それに篠笛の方たちも拓也の舞を楽しみにしていらっしゃいましたし。  その期待に応えるためには、キスくらいは何でもないと思いませんか?」 「うっ……」  それを言われると確かに弱い。  僕自身の希望はともかくとして、篠笛のおばちゃんたちが僕が2曲舞うという話になってかなり盛り上がっていたので、やっぱり1曲だけにしますと言ったらがっかりされそうだ。 「えーと、じゃあ、当日もよろしくお願いします……」 「はい、喜んで。  それでは蘭陵王の練習を始めましょうか」 「……はい」  そうして僕は、若干集中出来ない精神状態で蘭陵王の練習を始めた。

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