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奉納舞 4

 そうして、奉納演奏の当日を迎えた。  商店街の夏祭りは7月の最初の土日の昼間なのだが、篠笛を習っている人たちの中には商店街のお店の人が何人かいるので、奉納演奏は土曜日の夜に行うことになった。  僕の舞の方は練習を繰り返して2曲ともほぼ完璧に仕上がっている。  練習の時に疲れを取るために何度も倫くんのキスにお世話になってしまったことは、恥ずかしいから忘れてしまいたいけれど。  夕方になると、商店街の青年会の人たちが移動式の舞台を持ってきて境内の中央に設置していった。  神社の境内は明日、クラフトマーケットという手作り品専門のフリーマーケットの会場になるので、青年会の人たちは明日の朝一番に舞台をアーケードの中に戻して、境内の端に寄せてあるテントをフリーマーケットの形に並べ直すらしい。  今日は僕も自分の準備で手伝えなかったが、明日の朝は手伝うつもりだ。  夜になり、商店街の店の多くが閉まった頃、篠笛の皆さんと共に拝殿に入り、宮司に奉納演奏のための祝詞(のりと)を上げてもらう。  祝詞が終わって正面の扉から拝殿の外に出ると、思いの外たくさんの人が舞台を取り囲んでいて、僕たちが姿を表すとざわめきが起こった。  司会の人から開会の挨拶と最初の演目の人長舞の説明があった後、CDの音楽に合わせて装束を着けた僕が舞台に進み出る。  電気屋さんがセッティングしてくれたライトに照らされた舞台の上に上がり、境内の奥側を向いて舞台の中央に立つ。  奉納舞は神様に捧げるものなので、神様がいらっしゃる本殿の方を向いて行うのだ。  僕の準備が整うと、音楽が切り替わり、奉納舞が始まった。  境内の(さかき)から切った枝を持って舞う舞は、動きは地味だが、そのぶん厳粛な雰囲気のある舞だ。  僕の舞が神様に届くように、そしてその思いが見ている人たちに伝わるように、一つ一つの動作を丁寧に舞う。  今日はイベントの一環で舞っているが、神楽舞は本来は神事だ。  今こうして集まっている人々にも、単に踊りを見物したということではなく少しでも神聖なものを感じ取ってもらい、神社に興味を持ってもらうきっかけになれたら、と思う。  そんなことを考えながらも無事に舞い終えると、観客から歓声と拍手がわき起こった。  退出の音楽と拍手の音の中、舞台を降りて待機していた篠笛の皆さんと交代する。  皆さんの演奏も気になるけれど、僕は次の舞のために着替えなければならないので、舞台の下で僕の舞を見ていた倫宮司と共に社務所へ急ぐ。

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