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奉納舞 5

 社務所の装束部屋に入ると、倫宮司の低めのよく通る声が「拓也」と僕の名前を呼んだ。  振り返ると後頭部を引き寄せられ、唇を重ねられる。  倫くんは僕よりも身長が高いから、普段のキスはいつも上からだけど、倫宮司は僕よりも身長が低いから下からのキスになる。  いつもとは違う感覚の、しかも社務所で神楽舞の装束を着けたままという背徳的な状況でのキスは、いつも以上に胸が高鳴り体が熱くなる。  ……じゃなくて!  これは性的なキスじゃなくて、体力回復のための薬みたいなものだから!  思わず流されそうになった自分にツッコミを入れつつ、唇を離した宮司に「ありがとうございます」と早口で言うと、「どういたしまして」といい笑顔で返された。  照れ臭いので壁を向いて装束を脱ぎ、汗をかいたので白衣と襦袢とインナーも脱いで汗を拭く。  倫宮司の前なので恥ずかしいが、夜とはいえまだ蒸し暑い中で装束を着けて一曲舞って汗びっしょりで気持ち悪いから、そんなことも言っていられないのだ。  新しいインナーを着て水分を補給してから、やっと僕は倫宮司の方を向き、宮司が神通力で用意してくれた装束を宮司の手を借りて着付けていく。  数日前に一度試しに着てみて篠笛の演奏をしている時間で十分着替えられることは確認済みだけれども、何かあるといけないからできるだけ急ごうと、黙々と手を動かす。  蘭陵王の装束は紐で結ぶところが多く、着るだけでも一苦労だ。  しかも重くて暑いので、まだ舞ってもいないのに額に汗が浮かんでくる。 「この装束、本当に着るのが大変ですよね。  宮司が神通力で一瞬で変身するみたいに、僕も一瞬で着替えられたらよかったのに」  僕がつい、そんな愚痴をこぼすと、宮司は黙って微笑んだ。  その笑顔がどことなく不自然で、僕は少し不審に思う。 「……まさかとは思いますが、もしかしたら宮司は自分の分だけじゃなくて、僕も一瞬で着替えさせることができるとか……」 「ええ、まあ、できるかできないかで言えばできますけど」 「えっ!  なんだ、じゃあ、今からでもやってもらえませんか?」 「嫌です」 「えっ?」 「嫌ですよ。  拓也に装束を着付けるのが楽しいんですから」 「ええー……」  きっぱりと主張する倫宮司に、僕は思わず不満の声をもらす。  だが、倫宮司がこんなふうに自分の趣味嗜好を口にする時は、絶対に譲らないのを僕は知っているので、神通力で着付けてもらうのはあきらめることにする。  それにしても、装束を着付けるのが楽しいなんて僕にはまったく理解できない嗜好だが、神社の祭りでは着付けの手伝いが必要になるような複雑な装束は着る機会がないから、今日は2種類もの装束を着付けられて、さぞかし倫宮司は楽しかったことだろう。 「できましたよ。  確か今の曲が最後でしたね」 「はい、もう出た方がいいですね」  そう言って僕が立とうとすると、宮司はそれを制して、僕の額の汗を拭き、水を飲ませてくれた。 「あと、これも」  そう言って倫宮司はもう一度僕と唇を重ねた。  さっきよりはずいぶんとあっさりしているが、それでもしっかり舌は入っている。

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