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第5話

 すると匡人は俺に小銭を返すとスポーツドリンクの蓋を空けてひと口ごくりと飲み込んだ。 「あ……」  思わず声が出てしまうと冷ややかな視線のまま匡人は俺の事を見つめる。 「なんですか。やっぱり欲しかったんですか?」 「も、元々俺が頼んだものだぞ」 「でも、先輩はコーラじゃないからいらないんでしょう?」 「匡人が間違えて買ってきた」 「そうですね。だから僕は先輩にお金も返したし、自分で飲んでいます」  匡人は俺が兄の友人で、かつ部活の先輩だから声を荒らげる事はしないけど、淡々とした口調には呆れと怒りが混ざっているのがわかった。  でも俺はいつも間違えてしまう。 「それでもこれは俺が頼んだやつだ」  意味の分からない理屈で匡人からスポーツドリンクを奪い、代わりに返された小銭を握らせる。 「飲みかけですよ」 「……別にいいし」 「ほんと、素直じゃないですね」  そう言いながら体育館を後にした匡人の声は耳に入っていたけど、飲み物を自分の荷物の横に置きボールを手にして無心になる為にいつものルーティンのメニューをこなした。  そして一連の自主練が終わると体育館の壁にもたれながら座り込む。 「素直ってなんだよ……」  素直になれる方法があるなら俺が知りたい。  一口だけ口がつけられたスポーツドリンクの蓋を開ける。これを匡人が飲んだんだと思うとそれだけで胸は熱くなるし、自分もそこへそっと口付けるだけでドキドキした。  そして同時にこんな事をしている自分にも嫌気がさしていた。 「俺、めちゃくちゃ……キモイよな」  そもそも男を好きになるなんて思ってもみなかった。  でも、あのシュートを見た瞬間、全ての時間が止まり、会場のざわつきすら耳に入らずただ匡人だけが光って見えた気がした。  その気持ちは一緒にプレーすればする程に大きくなるし、好きな物ほど裏腹な態度で接してしまう俺は気持ちを自覚した時には既に取り返しのつかない所までこじらせていたけど、俺の初恋はきっとこのまま引退し卒業してしまえば静かに終わりを迎える。だから別にこのままでも一緒なんだ。

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