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第8話

 ✳︎✳︎✳︎  これまでの事を思い返しながら卒業式の後、久しぶりの部室でベンチに座り匡人のロッカーを見ていた。名札に書かれている少し角ばった真面目そうな字も見納めか。  本当に最後なんだと思うとちょっとした出来心でそっと匡人のロッカーを開けると鍵はかかっておらず、ハンガーにかけてあった学ランを手に取りその第二ボタンを外した。  自分でも乙女趣味だと呆れながら、思い出だけでも欲しかった。  これで本当に終わりだ。そう思いながらそのボタンをポケットにしまって制服を戻そうとした時、ふわっと香った匡人の匂いに別の欲求が生まれてしまう。  ──もっと嗅いでみたい。  それは一度思ってしまうとどうしても実現させなければ解消できないような気がしてきて、今日が卒業式だからとか、今は後輩も部活中だからとか、たくさんの言い訳がよぎる。  そして最後だから、と自分にも言い訳をして、すーっと匡人の学ランに顔を埋めながら息を吸い込むとまるで抱きしめられているような感覚に陥った。そして止まらなくなってしまう。  いつも妄想の中でだけは素直に甘えてみたりして、妄想の中の匡人も優しい口調で俺のことを抱きしめてくれる。そんな事、あり得ないとわかっているのに自分勝手な妄想だ。 「匡人……」  名前なんて呼んでしまっては尚更、次第に体の一部分が高ぶってくるのがわかる。いけない事だとわかっていながら俺は夢中になってベルトを緩めて下着の中に手を差し込んだ。  鼻先を掠める匡人の匂いにぶるっと震えたそこは早くも先走りを滲ませて指で包んで扱くとぐちゅっと粘着質な音が響いた。

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