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第11話
掴まれた部分がじんじんと熱くなっていく。
「……ずっと先輩は僕の事を嫌っていると思っていました」
「離してくれ」
次第に腕は震えだした。
「何か気に障ることをしたんだろうって」
「……頼むから離してくれ」
「でも兄の友人だし、部活の先輩だし、気にしないようにしてきたんです」
「離せ!」
思いっきり腕を振り解くとすぐさま今度は両腕を掴まれて壁に押しつけられ、顔を上げれば匡人が俺の事を見下ろしていた。
「あんたは分かりにく過ぎるんだ!」
今までに見た事も聞いた事もない大きな声を出す匡人に思わず息を呑む。
「嫌われているものだとばかり思ったのに、あんなに僕にだけ横柄に振る舞っていたのに、あの日、先輩が僕の制服を抱きしめてあんな事してた姿を見て混乱したんです」
そして一年前のあの醜態を思い出して言葉が無くなった。
「……ごめん」
咄嗟に謝る事しか出来なくて、俯いたと同時に視界が涙で歪み始める。
「どうしてなのか。何なのか、ずっと考えていました」
情けないからもう見ないでほしい。もう思い出だけとか言わずに忘れるから、そう思っていると次第に目に溜まった涙が溢れ出す。もう限界とばかりに匡人に腕を掴まれたまま壁にもたれずるずると座り込んでしまった。
「……ごめん」
「謝ってばかりじゃなくて、他に言う事ないんですか?」
他に何を言えばいいと言うのか。もうお前の事は忘れますと誓えばいいのか。
「…………」
「僕は怒っているんです。先輩のせいで人生がめちゃくちゃだ」
「……ご、ごめん」
そんなに匡人を苦しめていたのかと思うと余計に涙が溢れてきた。でも、匡人は泣いても許さないとばかりに俺の事を更に追い詰めていくのだ。
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