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第12話

「この一年、そればかり考えていました。本当に何度も何度も、忘れようと思っても忘れられない。考えないようにしても思い出してしまう。挙句の果てに先輩のせいで大学まで追いかける羽目になった。責任取って貰わないと困ります」 「だから……責任ってなんだよ」  それってどういう意味なんだ?  頭で理解する間もなく、匡人は自分の胸に俺の手を持っていく。そこには本来あるはずの第二ボタンだけがなかった。 「ボタン、先輩が取ったんでしょう?」 「…………」 「先輩のせいで僕は一年間笑われ者でしたよ」 「な、なんでそのままなんだよ! 予備のボタンくらいあっただろ⁉」  するとまた真っ直ぐに俺を見ながら静かに言った。 「あんたが取ったんだ。よく見ろよ」  またびくっとなると、眉をひそめたまま匡人が俺の腕を強く握りしめた。 「何か気にくわない事をしたんだと思ってた。嫌われていると思ってましたから。でもそれが愛情の裏返しって、あんたどれだけ分かりにくいんですか」 「……別に好きとか言ってないし」 「まだ言いますか」 「……俺にどうしろって言うんだよ」  それでも匡人は責任として俺に何をさせたいのか一向に言わずに射るような視線だけを向けて、また同じ質問をする。 「もう一度聞きますよ。先輩は僕の事が好きですか?」  力なくそれでも最後の抵抗とばかりにかぶりを振りながら手を振り払うと、腕が棚にあたってその上に置いていた鍵の束が床に落ちた。  カシャンと音がしたのと同時にキーホルダーに付けていた金色のボタンが露わになる。 「僕のボタンまだ持ってるくせに。本当に素直じゃないですね」  

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