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5-1-最終章

年上の恋人・麻貴と会えない日々が続いていた。 「はぁ……」 もう一ヶ月まるっと会っていない琉真はついついため息をついてしまう。 一学期の終業式前日に麻貴と付き合い始めたが。 こんなにも会えない期間が長引くのは初めてだった。 最近は出張や勉強会でも忙しいようで、送ったメールに「既読」がつくのが翌日というのも珍しくなかった。 ……忙しいときに手間をとらせるのも悪いからメールも電話も控えてる。 ……それに、やっぱりメールも電話も物足りないし。 『琉真は勉強頑張ってるか?』 声を聞いたらもっと会いたくなるから。 もっと淋しくなってしまうから。 「はぁ」 休み時間、暖房が効いた教室、自分の席で琉真はついついため息を連発してしまう。 「りゅーちん、恋愛お悩み中?」 「おれら相談にのっちゃるよ?」 いつの間に背後に忍び寄っていた友達に肩を揉まれて琉真はじろっと二人を見返した。 「……麻貴さんが男だって言ったらヒいたくせに」 数週間前に琉真は付き合っている相手が男だと友達に告げていた。 「あれはビックリしただけだし」 「なになに、すんなり納得してその場で笑顔で応援してるよ! ってリアクションが正解だったん?」 琉真はただでさえ黙りがちな口を噤んだ。 「元気出して、りゅーちん」 「ほら、アメあげる」 「……こどもじゃないし」 そう言いながらも琉真は個装された飴玉を受け取った。 ちょっとはにかんだように笑いながら。 来月に学年末考査を控えた二月半ば。 十一歳も年上の恋人と会えない日々が続いて不安じゃないと言えば嘘になる。 向こうは大人だ。 多忙な医療機器メーカーの営業職、一癖も二癖もある顧客を相手にすることだってざらにある。 感情のコントロールにだって長けているだろう。 ……淋しいのはきっと自分だけ。 ……忙しい麻貴さんは俺のこと思い出す暇もないハズ。 ここ数日メールのやり取りすらしていないし、特に約束もしていないというのに、学校が終わった琉真は麻貴の自宅界隈に向かった。 まだ西日で仄明るい時間帯だった。 「お前、また」 因縁のあるゴミステーション前で琉真は麻貴の元恋人・風見と再会した。 「いや、誤解しないでほしいんだけど、断じてストーカーではないから?」 体の線に沿ったトレンチコート、ブランドのビジネスバッグにマフラー、レザーグローブ、凍える冬でも着膨れしないスレンダーな風見は警戒心を剥き出しにしている琉真に苦笑した。 「この辺、お得意様のクリニックが多いんだよ。必然的にここを通るわけ」 ネイビーのブレザーにカーディガン、チェック柄のズボン、無地のマフラーをシンプルに巻いた、相変わらず美容師の両親に毛先を遊ばせられている髪型の琉真は敵意を引っ込めない。 「溜まってるみたいな顔しちゃって」 そんなことを言われると毛を逆立てて威嚇する猫みたいに風見を睨みつけた。 「あれ、図星?」 「ッ……」 「そっか、そっか。ふーーーーん」 したり顔の風見は平然と歩み寄ってくると琉真を見下ろした。 「あいつを振り向かせるとっておきの言葉、教えてあげようか」 琉真は目を見開かせた。 「……あんたに教えてもらうことなんてない」 「嘘だー、今、明らかにグラッとしたじゃない?」 「……してない」 「うーん、振り向かせるっていうより手っ取り早く愛情確認する方法かな」 生まれながらのイケメンゲスっぽい風見から教えてもらうのは気に食わないが。 興味はなきにしもあらず。 琉真は彼の次の言葉を待った。 「新しい恋人ができた、そう言ってみな?」

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