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意外と律儀だな、このコ。
意外と声が低めで落ち着いて、いやいや、彼女に「しね」言われてビンタされるような奴だぞ、それってなかなかな問題アリだろ。
「誤解しないでほしいんです」
片頬をハンカチで押さえた彼はポカンしている麻貴に言う。
「さっきの人、いきなり話しかけてきて、友達の友達って言ってきたけど、ぜんぜん知らない人で」
うそだろ、あれ逆ナンだったのか。
今日日の女子高生の積極性半端ないな。
「どうしていいのかわからなくて、迷ってたら、ビンタされて」
「それは……ちょっと問題だな、いや、大分問題だよな。怖くなかった? 大丈夫?」
麻貴に問われた彼はやや尖った目つきの双眸を意味深に細めた。
あ。
高校生相手にこども扱いだったか、今のは、
「うん。でも。ハンカチもらって、ほっとした」
つっけんどんそうなモテルックスに反して律儀な男子高校生、琉真は、後日ハンカチを返したいからと麻貴の携帯番号を尋ねてきた。
彼のギャップに傷心を癒された麻貴はすんなり教えてやった。
それからちょこちょこ会うようになった二人。
自分の周りにはいなかった年上の営業マン、整った身だしなみに仄かに漂う香水、さり気ない優しさを身につけたオトナっぽさが新鮮で琉真はすっかり麻貴に懐いた。
医大や病院を巡り、教授や院長らに適度なお世辞トークを繰り広げ、新製品プレゼンのアポ承諾というご褒美をもらうのに日々心身を費やしている麻貴にとって高校生の琉真は弟のようで。
癒やし効果絶大なる和やかな時間が楽しみになって。
「付き合ったことないの?」
想像以上のギャップに度々驚かされた。
「意外だな」
「なにがそんな意外なの」
「あー。おしゃれに気を遣ってるみたいだし、いつも髪だってセットしてるし。かっこいいし。もてそうだから」
ファミレスや全国チェーンのカフェで月に何度か他愛ないおしゃべり。
「俺、親がどっちも美容師やってて。毎朝実験台にされてる」
酒の入らない食事は肝臓にも優しい。
「告られたことはあるけど。まだ、そんな興味ないし」
熟していそうな外見に反して初々しい中身に毎回一安心するような。
高校生、かなり年下。
つまり彼はまだまだこどもだ。
これまで付き合ったのは年上、もしくは同年代、なおかつ同類及びバイ。
琉真はタイプじゃない。
弟みたいで癒やされるからいっしょにいるだけ、だ。
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