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「ホラー借りるの」 「うん。この監督、ついこの間亡くなって。無性にまた見たくなったんだよな」 「おもしろいの」 「俺は好きだけど」 「俺も見たい」 冷房がよく効いたレンタルショップのホラーコーナーで麻貴は目を丸くした。 「明日、俺、終業式で。授業もないし。今からいっしょ見たい」 「俺のウチに来るの?」 「行きたい」 時間は……もうすぐ八時か、この映画は短めの九十分程度、門限の十一時までには帰してあげられるか。 別に下心なんてない。 純粋な高校生に手なんか出せるか。 「じゃあ何かテイクアウトして食べながら見ようか」 琉真は麻貴から視線をずらすと斜め下を向いて頷いた、これはかなり嬉しいときの癖だ、過度な感情表現に至らない彼のふとした仕草に年上リーマンはつい笑った……。 「麻貴」 真夏の宵に不吉なシルエット。 すでに視界に入った瞬間から懸念していた麻貴は琉真をカーブミラーの下で待機させ、元恋人の元へ先に一人で歩み寄った。 「帰ってくれ」 「なぁ。こんなのあんまりだぞ。酷過ぎる」 「それは俺の台詞だバカ野郎」 着信拒否していた元恋人に手首を掴まれて至近距離で詰られた。 「おいおい、嘘だろ、まさか高校生と付き合ってるのか」 「あのコとはそんなんじゃない」 「えらく趣味変わったな。それともヤケクソか? そんなことするくらいなら俺と、」 「バカ野郎」 琉真にはどう見えてるのかな。 男同士の痴話ケンカだってバレバレだろうな。 手首も痛いけど胸の奥もズキズキする。 もう彼と会えなくなるだろう不安と淋しさに心が折れていくみたいだ……。 「離せ」 元恋人は琉真の気迫に圧されて立ち去り、麻貴は言葉少なめにワンルームなる我が家へ何とも頼もしかった男子高校生を初めて招いた。 「見苦しいところ見せたな、ごめん」 片づけられた室内を見回すでもなく隅っこで突っ立っていた琉真に麻貴が詫びれば。 琉真は小さく笑った。 「最初の俺みたい、麻貴さん」 荷物を手放して自由になっていた利き手の指先に擦り寄ってきた褐色の指。 「さっきの人って」 「……元恋人」 「やっぱりそうなんだ」 夏の宵に熱せられた指同士がぎこちなく絡み合う。 「あの人は未練ありそうだった」 「俺はとてもじゃないけど、全然」 「全然? ほんとに?」 もう片方の麻貴の手にも重なった琉真の掌。 「あの人とキスしたり、セックス、したの」 自分より少し上背のある琉真に覗き込まれて麻貴は返事を言いよどんだ。 それを肯定と見做した琉真は。 嫉妬した。 かつてない感情に身も心も乗っ取られて他は何も考えられずに年上の男にキスをした。 まだ明かりも点けていないワンルームの片隅で唇を繋げ合った二人。 甘い蜜じみた展開に昂揚感が止まらない麻貴は持つべき倫理観を放棄して……琉真の舌を口内へ誘った。 「ン」 琉真は誘われるがままやってきた。 繋いだ両手を壁に押さえつけ、どんどん増していく体内の熱に混乱しつつも抑え難い衝動に従った。 「っ……麻貴さ、ん」 「喋るな、今は……キスだけ……」 「ん……っ……ん……」 口内で縺れ合う舌先の微熱に麻貴はうっとり笑う。 これまでに見覚えのない微笑を薄目がちに目の当たりにした琉真は背筋をぶるりと震わせた。 自らも求めてより深く口づける。 ワイシャツを腕捲りし、ネクタイを緩めた麻貴に密着して欲深なキスに夢中になった。

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