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炎天下の日差しが容赦なく照りつける表通りのファストフード店。
「絶品おかわりしよーかな」
「冷たいの食いたい、頭キーンなる系。どっか移動しね?」
「暑いし。めんどいし。別んとこから買ってきてココで食えば?」
冷房がガンガンに効いたフロアの片隅、向かい側に並んで座る友達二人に琉真はおもむろに打ち明けた。
「……俺、恋人できた」
一方、その頃、繁華街の一角に建つ高級鉄板料理店で。
「どうぞ皆さんお好きなものを」
シェフが目の前で魚介やら肉やら焼いてくれるカウンター席、営業マンの麻貴は懇意にしている取引先の総合病院外科部長及びスタッフ数名をランチ接待でもてなしていた。
「このお店来てみたかったんです」
「小野田さん、カノジョと来たりしてたり?」
若い女性スタッフに話しかけられた麻貴は適度な営業スマイルで取り繕う。
さーて、八月は納涼接待が毎週二件づつ入っている。
お呼ばれした個人病院の宴席では毎回恒例の余興依頼あり、パーティー好きの事務長奥様が喜ぶ最新ヒット曲の振りつけは習得済み、だ。
「今日もう終わりだし、白ワイン頼んじゃおうかな」
隣のコがしてるピンキーリング、外科部長がヒイキにしてるジュエリーショップの最新アイテムだ。
つまり現愛人ってことか。
端っこで旧愛人が素知らぬ顔で座ってるのが怖いな。
あーあ。
琉真に会いたい。
「……十歳以上、年上で、営業やってる、尊敬できる人」
質問攻めに遭った琉真は、息巻く友達に淡々と回答して味の薄くなったジンジャーエールを一口飲んだ。
「十歳、以上?」
「マジですか」
顔を見合わせて驚きを共有している友達二人から視線を逸らし、真夏の日差しに燦々と輝く街路樹をガラス越しに見上げる。
先々週の花火大会から一回も会ってない。
前より忙しそうだし、メールもあんまり送ってない、メールなんて物足りないだけだし。
俺は夏休みで、友達と時々遊んで、宿題やって、夜更かしして、だらけて。
麻貴さんはずっと働いてる。
次の約束は未定。
元気してるかな。
会いたい。
「……営業ってどれくらい忙しいんだろ」
ハンバーガーが瞬く間に消え失せて残された包装紙、食べかけのポテト、ドリンクの容器下で小さな水溜りが広がりゆくテーブルを挟み、ガラスの向こうをぼーーーーっと眺めていた琉真の独り言に友達二人は改めて顔を見合わせた。
「そもそも営業ってどんな仕事?」
「営業って言えば、あれっしょ、枕営業」
「……麻貴さん、別に枕とか売ってないし」
「「まきちゃんっっ」」
「……麻貴ちゃん言うな」
「枕営業って、枕売る意味じゃないし? 自分の体、性的アピールして? 代わりに商品買ってもらうみたいな?」
普段からやや尖った目つきをした琉真の眼差しがさらに刺々しくなった。
そんなの聞いてないし。
性的アピールって、なに。
そんなこと麻貴さんがするわけない。
枕営業について友達二人が興奮しながら語り合い、琉真が何の罪もない街路樹をじっと睨みつけていた矢先に。
テーブル上に置かれていた彼らスマホのどれかがピロン♪と音を立てた。
それぞれ自分のスマホを反射的に取り上げた高校生三人。
<今日の夜会えそう>
琉真のスマホ画面上に表示された麻貴からのメール。
たった今までの苛立ちを忘れて琉真は釘付けになる。
そんな友達の様にほーーーーっと感心する二人。
「まさかりゅーちんがね」
「何回告白されてもクールに断ってきたあのりゅーちんがね」
「……うるさい」
両親におにゅーのピアスを押しつけられて琉真は渋々はめていた。
褐色の肌に鮮やかなターコイズがよく映えている。
オフホワイトのVネックシャツにライトブラウンのクロップドパンツ、黒コンバース、手首にはカジュアルめなブラック系の手作り風三連ブレスレット。
「窓際に座ってるコ、かっこいい」
街中でもモテオーラを放つ男子高校生、どれだけ賛辞の声をかけられようとなびかない、ふらつかない。
<わかった>
今はそんな短文メールの返信を打つのに全神経を集中させていて彼の鼓膜に拾われることもなかった。
友達と別れて一端帰宅し、黄昏時、居ても立ってもいられず正確な待ち合わせ時間が指定される前に家を出た。
電車に乗って麻貴のマンション近辺へ向かう。
そこで出くわしたのは。
「君、麻貴といっしょにいたコだよね」
麻貴の元恋人だった。
チラリと見た程度の相手だったがお互い記憶していた二人は人通りのちらほらあるゴミステーション前で対峙する。
「また来るとかありえない、帰れ」
「ちゃんとアイツと話できるまで来る予定です」
「あのとき、どう見ても麻貴さん、嫌がってた。もう来るな」
「やれやれ。これだから高校生の十代ちゃんは」
猫ならば毛を逆立てそうな剣呑ぶりで立ちはだかる琉真に苦笑した元恋人、風見 は、殺気立つ男子高校生を上から下まで堂々と見回した。
「ふぅん」
何が「ふぅん」だ。
麻貴さんから聞いたんだ。
『別れた原因は……人としてあいつのこと信用できなくなったから、だ』
詳しくは知らない、あんまり聞くのもガキくさいかと思って。
でも、よっぽどひどいこと、麻貴さんにしたんだ。
俺より年上でオトナの麻貴さん、色んな過去があるはずだ、聞かれたくないことだって……あるはずだ。
「麻貴のこと教えてあげようか?」
製薬メーカーに勤務するMR、ネクタイを緩めてスーツを片手に提げたイケメン風見の言葉に琉真は目を見開かせた……。
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