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第9話

「鷲さん」  目を見開く黒斗に、 「怒る訳、ないだろう。そんな真似をしてまで俺を抱きたいと思ってくれたんだろう?」  そう目を細め、彼の唇に触れて指先で撫でる。 「俺は、君の好意が素直に嬉しい」 「鷲さん」 「黒斗。俺はね、君とまたあの文章のような事をしたいんだよ?」  そう、身を寄せて唇を撫でていた手が、そのまま頬を撫でる。  するとその手を黒斗の手が捕まえて口元へと持っていき、軽く口づけをする。 「俺も、鷲さんを乱したい」  互いに見つめ合いながら顔を近づけていき、あと少しで唇が触れ合うといった距離で、携帯の着信音が二人の邪魔をした。 「あぁ、なんてタイミングが悪い電話なんだろうね」  そう苦笑いし携帯を取り出すと通話ボタンを押した。 ◇…◆…◇  ウェブにアップされた短編は評判が良いようで、続編希望の声が多く寄せられているそうだ。 「いやぁ、それにしてもモデル作戦が上手くいくとは思いませんでしたよぉ」  駄目でもともと。そう思っていたが、うまくいったようで良かったですと担当が言う。 「モデルの子のお蔭だな」 「えぇ、そうなんですか。どんな子なのか気になります」  会わせてくださいよと言う担当に、鷲は彼は忙しい人だからどうだろうねと誤魔化す。  黒斗の事は担当に会わせる気はないし、モデルを頼んだという事はあとがきに触れるつもりもない。興味をもたれたら嫌だからだ。 「で、ですね。続きを書かないかというお話がきているのですが」  この雑誌ですとBL誌を手渡される。その表紙は互いに愛おしそうに相手を見つめていていた。  黒斗を見つめている時の自分はきっと表紙の彼の様な顔をしているのだろうな、なんて思いながら受け取った雑誌をテーブルの上へとおく。 「お話、有りがたくお受けいたします」 「あぁ、良かった。では、こちらの担当に話をつけておきますね」 「はい。宜しくお願いします」  担当が帰った後、鷲は黒斗にメールで続きを書くことを伝えれると、すぐに「楽しみにしています」と返信がくる。 「俺も楽しみだよ、黒斗」  これから先、鷲は黒斗と共に歩んでいく。  だから話の中の二人にも、自分達と同じように共に歩んで行って欲しいと思ったのだ。  ノートパソコンを開き、キーを打ち始める。  ともに幸せになろうな、と、文字の中の二人に微笑みかけた。 【了】

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