10 / 14
緊縛_1
緊縛というお題でウェブ用に短編を書いて欲しいという編集担当者からのメールに、画面を睨んだまま頭を抱えてしまう。
罪人を拘束するための緊縛術なら書いた事があるが、求められているのは別のものだ。
元は捕物帳シリーズの脇役であったが、ウェブで無料配信する為の短編を依頼され、しかもそれがボーイズラブもので、ファンからの要望もあり二人が恋人同士となった。
だが、保が芳親に緊縛を求めるとか、その逆も想像がつかない。どちらもそういう行為を求めるようなタイプではない。
「芳親に想いを寄せている男が居て緊縛されるとか? だが、彼は結構な剣術の使い手だしな……」
片腕が無い事をハンデにしたくなくて剣術を必死で学んだ。捕物帳シリーズではその腕で主人公のを何度も助けている。
「でも、縛るのなら保よりも芳親の方だよな。さて、どうしたものか」
文字を打っては消す作業を繰り返しながらブツブツと呟いていれば、「鷲さん、ただいま」と大学から戻った黒斗が声をかけてくる。
「あ、黒斗、おかえり。もうそんな時間か」
どれだけ悩んでいたんだろうか。ノートパソコンの電源を落として彼の方へと顔を向ける。
「どうしたんです?」
鷲が悩んでいる事に気が付いたようで、話して欲しいという表情を浮かべ傍へ腰を下ろす。
「実はさ、緊縛というお題で話を書いて欲しいって連絡がきてね」
「緊縛、ですか」
それはまた、と呟いて苦笑いを浮かべる。
「はは、そういう反応になるよな。俺も困ってる」
「ですよね。あ、そうだ」
そう声を上げ、黒斗は立ち上がり本棚へと向かう。そして、捕物帳シリーズの五作目を手に戻ってきた。
「確か、春画を描く男の話がありませんでしたか?」
「あぁ。藤の事か」
芳親の弟である恒宣が雨の日に迷っていた所を助けたのが絵師である藤で、それが縁で芳親の友に手を貸す事になる。
「たまにしか出てこないキャラクターなのに良く覚えていたな」
「実は、久野先生に春画を見せられましてね。鷲さんの作品の中に春画を書くキャラがいたなって」
「そうだったのか」
久野とは大学の講師で父の教え子だ。たまに貴重な資料を借りに鷲の家に来る。
「で、春画の方はどうだった?」
「それ、聞きます」
本をテーブルの上へと置き、その身を抱きしめられる。そして、軽く口づけられた。
ともだちにシェアしよう!