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ショコラな本能-1

「どうぞよろしくお願いします」 中高一貫制である私立男子校のα(アルファ)β(ベータ)混合クラスにやってきた転校生。 名前は(しき)といった。 自己紹介の際に自らβ性だと名乗ったが、担任である(すい)を含め教師一同は彼が特殊なΩ(オメガ)であることを前もって知らされていた。 「席はあそこだ」 隹の言葉に式は浅く頷いた。 クセのない髪がさらりと揺れ、どこか物憂げで切れ長な目許にかかる。 新学期の始まり。 新しい教室で知らないクラスメートも多い中、大半の生徒たちが興味深げに転校生を眺めている。 式は落ち着いた表情と足取りで自分の席へと歩いていった。 (コクーン・オメガ……か) 黒板前から華奢な背中を見送っていた、美術科の専任教諭である隹はシンプルなフレームの眼鏡をかけ直す。 春休み中に開かれた職員会議、自分が受け持つことになった転校生の「第二の性」を聞いて驚かされたものだった。 二十七年というこれまでの人生において「コクーン・オメガ」とは巡り会ったことがない。 一般のΩとは異なる体の構造・特徴を持っていて、非常に稀有(けう)な存在だと認識していた。 式の両親はどちらもβ性である。 全国展開型の法律事務所に所属する弁護士の父親が新規に開設された支店を任され、よって家族で引っ越し、それが転校理由だった。 コクーン・オメガは男性にのみ現れる特殊な第二の性である。 彼らは子宮を擁していた。 一般のΩ男性は直腸奥に子宮代わりとなる独自の生殖器を有している、しかしコクーンの場合、女性生殖器系なる外性器・内性器そのものが男性器と共に備わっていた。 ただでさえ人口比率の低いΩ。 その50万人の内一人の割合で誕生すると言われている。 (紛れもない奇跡の両性具有(アンドロギュヌス)というわけか)

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