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ショコラな本能-2

Cocoon(コクーン)は繭を意味していた。 彼らの体の中に在る子宮を表しており、(つがい)と結ばれると其処は胎児の揺り籠になる。 然る人口統計学研究所の調査によるとコクーンはいわゆる「エリート」を出産する確率が非常に高いと言われていた。 一般のΩ性男女と対比したところ、健康面でも学力面においても優れた遺伝子を残すという結果が出ている。 謎めいていて神秘的ですらある繭の揺り籠。 公的機関なる生物学研究施設で国を挙げて取り組んでいるコクーン・オメガ研究プロジェクト、その被験者として定期検査が義務付けられている一方で、日常生活に支障が出ないよう手厚い補助金制度などで式の暮らしは守られていた。 いや、守られているというよりも。 監視下に置かれているというべきか。 「おれね、宇野原(うのはら)! 何かわからないことがあったら聞いて!」 前年度でも隹が受け持っていたβ性の宇野原が隣席から声をかければ、式は、控え目な笑みを浮かべて頷いた。 きちんと締められたストライプ柄のネクタイ。 細身で、中性的で、頼りないシルエット。 エンブレムつきのネイビーのセーターは袖が余っていた。 (βと偽っても、一般のΩならヒートでばれる恐れがある、でも) コクーンには発情期(ヒート)が発現しない。 よって番と出会うまでβとして生活するよう推奨されていた。 (貴重な繭の持ち主だ、正体を明かせば、いつどこでどんな危険に遭遇するかわかったもんじゃないんだろう) 「なんか式ってΩみたいじゃ!?」 宇野原の無邪気な声が聞こえてきて隹は思わず吹き出しそうになった。 α性の生徒が動揺しているのがわかる。 当の式は動揺するでもなく静かに首を左右に振った。 色白で、どこか翳りを纏う眼差し、薄幸そうな雰囲気。 難儀な生徒を担当することになった、そう、隹は思っていた。 『トイレが全個室だからウチに決めたのか』 教室に到着する前、職員室を出て階段を上っている途中、場でも和ませてやるかと冗談紛いに転校生に尋ねてみた。 すると式は露骨に顔を背けて回答した。 『そうです。じゃないと、貴方みたいなデリカシーのない教師がいる学校になんか来ない』 「どこから転校してきたの!?」 「宇野原、おしゃべりはその辺にしておけ」 注意された宇野原は「すみませんっ」と、肩を縮めてあたふたと謝った。 隣の式は恐ろしく無反応でいた。 (ただの難儀な生徒じゃない、恐ろしく難儀な生徒だ) 中学三年生になったばかりの生徒らに一旦背中を向け、αの隹は、密やかに一人笑った。

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