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ショコラな本能-3

式は正直なところ密かに自己嫌悪に陥っていた。 『貴方みたいなデリカシーのない教師がいる学校になんか来ない』 (どうしてあんなことを言ってしまったんだろう) 講堂で開かれた中学・高校合同の始業式。 通路側のイスに姿勢正しく座り、壇上で長々と挨拶する理事長に視線を向けつつも、その内容はまるで頭に入ってこなかった。 あそこまで言う必要なかった。 反応なんかしないで聞き流したらよかったのに。 式は少しだけ顔を傾けて講堂の壁際へ、着席せずに間隔を開けて立っている教師たちの方をチラリと見やった。 担任の隹は教師陣の中で抜きん出て目立っていた。 180を超える長身で無駄な贅肉がなさそうな体躯にフォーマルスーツがよく映えている。 (あの目) 視界の端で隹を捉えたまま式は思い出す。 階段の踊り場、窓から差し込む朝日を浴び、レンズの向こう側で一瞬だけ青水晶色に煌めいた双眸を。 (隹先生って、外国人……ではなさそうだけど) カラーコンタクトではないだろうし、近しい人が海外の生まれだったりするのかもしれない。 想像もしていなかった色がいきなり視界に飛び込んできて、胸がざわざわして、狼狽えて、それに気づかれたくなくて……咄嗟に言ってしまった。 (でも、あの質問は本当にデリカシーがなかった、だからイライラするのも仕方ない……うん) 他者に対して敵意を振り翳すことに慣れていない、自分が口にした嫌味を気にしていた式は、次に反対側へさり気なく視線を向けてみた。 中央の通路を挟んでβ・Ωの混合クラスが着席している。 講堂後方を占める高等部は中等部と比べて生徒数がやや少ないように感じられた。 (……ヒートの生徒が休んでいるのかな……) β・Ωの混合クラスではなくα・βの混合クラスに入ったのは両親の要望によるものだった。 いずれ番うαにそろそろ耐性をつけておいた方がいいとやんわり促され、式は同意した。 (……でも、おれに(つがい)なんて……)

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