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ショコラな本能-4

式は、もう一度、壁際に立つ教師陣を横目で窺う。 ほとんどがβ性だ。 Ω性の教師はいない。 数少ないα性の教師はβ・Ω混合クラスの担任や授業の受け持ちからは除外されていた。 先月まで式が通っていた学校も似たようなものだった。 前年度の担任は今回の隹と同じくα性の男性教諭であった。 物心ついた頃から第二の性を偽ってβ性を装い続けてきた式に親身になって接してくれた。 過剰なまでの愛情を一方的に注いでくれた……。 「ッ……」 式は俯いた。 白磁色の頬がさっと青くなる。 薄く色づく唇をきつく結び、斜め下ばかりを頑なに見据えた。 目を閉じると瞼の裏にの記憶が蘇りそうで。 雨の日の放課後、いつも通りの優しい笑顔を浮かべて近づいてきた担任の足音まで聞こえてきそうで、ついつい耳を塞いだ。 (ごめんなさい、せんせい) 始業式の最中にあるまじき振舞であったが、鮮明な過去の記憶から逃れたく、心配した近くの生徒の呼びかけにも答えられずに硬直していた式の元へーー 「式」 式は瞬きした。 特に大きな声でもないのに、鼓膜にしっかり届いた呼号に小さく肩を震わせ、ぎこちなく横を見た。 「理事長の話がそんなに耳障りだったか」 隹がいた。 通路に跪いて窮屈そうに背中を丸め、あろうことか笑みを浮かべて真下から式を覗き込んでいた。 「……隹先生……」

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