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ふぇち★フェチ!-5
誰かをお持ち帰りするどころか。
「んにゃーーー……伊織ぃ……もう飲めないべ……」
三時間飲み放題コースでべろんべろんに酔っ払った松島。
「まっくん、二次会行くでしょ? 行くよね?」
「んーーーー……もうきつい……まっくん、おうちかえる……」
「はあああ?」
勝手気ままな松島に同席者三名は呆れ、伊織はと言うと。
「俺、送るから」
自分にもたれて寝かかっている松島に本日最高の気分になりながら自分もさり気なく二次会拒否した。
勘定のため酔っ払い松島に一言断って彼の財布から、自分の財布から一次会費用を幹事に渡し、店頭で皆と別れ、背中に「また遊ぼー、まっくん、伊織きゅん」なんて女子に声をかけられつつ何の未練もなしにその場を離れて夜中の街をゆっくり進んで。
ある店のショーウィンドウ前で伊織はふと立ち止まった。
「松島、ちょっと待っててくれる」
「うん、うん、うん」
ちゃんと理解しているのか怪しい、寝とぼけている松島をベンチに座らせ、夜遅くまで営業している店に単身入って。
五分ばかりして足早に出てきた。
「あ、松島、そんな風に寝てたら警察来るから」
「うーーーーー」
ベンチで完全横になっていた愚図り松島を立ち上がらせると横から支えて彼のアパートを再びゆっくり目指す。
がさ、ごそ、肩から提げた紙袋を頻りに揺らして。
いつもこきたない松島のワンルーム。
「お水、飲んで、松島」
「……ん……ん」
「今日、みんなタイプだったんじゃないの」
「ん」
「なんかもうメール来てるみたいだし」
「ぷはぁ」
道中、自販機で伊織が買ったミネラルウォーターをぐちゃぐちゃなベッドに腰かけて飲ませてもらった松島。
アウターのポケットから転がり出たスマホをやたら重たそうに拾い上げて、画面に表示されているだろうメール内容を見ようとして。
伊織はそれを強引に阻止した。
酔っている松島の顔を両手で挟み込み、アルコールに水分をとられて乾いていた唇に、ちゅっとキスした。
「ン……っ?」
それでもチェックしようとする松島を今度はベッドに押し倒す。
どちらもアウターを着たまま、かさばる身のまま上下に重なり合う。
二月の夜に冷えていた手も重ねて。
「ん……ぷ、ぷ……」
掌は冷たいが口内は温く潤っていて。
もっとあたたかくしようと、舌先を滑り込ませ、ヤル気のない舌と擦り合わせた。
玄関前だけ明るいワンルームにしばしクチュクチュと立てられた水音。
「……やいてる伊織きゅんって貴重」
唇を離せば笑う松島と目が合って伊織は僅かに眉根を寄せた。
「松島、そんな酔ってないの?」
「んーー……? ちょっとは醒めたかにゃーー……店、出たのはあんま覚えてない……あれ、俺、ベンチに放置されてた?」
「ちょっとだけ」
これ、買ってたんだ。
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