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第4話
「よし、ちゃんと出来てるな。
がんばったから一回休憩にしようか。
コーヒーおかわり入れるから」
「あ、僕やります」
「いいよ、慣れてるから。
それに俺としてはちょっとでも点数稼いでおきたいしな」
吉泉さんはそう言ってちょっと笑うと、コーヒーを入れるために席を立った。
点数なんて、さっきからずっと稼ぎっぱなしなのにな。
優しくて、勉強の教え方が上手くて、笑顔が素敵な吉泉さん。
吉泉さんは僕が会長になったらずっと勉強を教えてくれるというし、それにこの人が支えてくれるのなら、僕にとっては無謀な生徒会長という役割もなんとかこなせそうな気がする。
他の生徒会役員や生徒会長の仕事のことはまだわからないけど、正直もう、吉泉さんが副会長というだけで生徒会長を受けてもいいんじゃないかという気になりつつある。
……あ、いや、っていうか笑顔は関係ないし。
コーヒーを入れて戻って来た吉泉さんが僕の顔を見て微笑んだのを見て、僕は自分が無意識のうちに吉泉さんの笑顔を理由の一つに入れていたことに気付き、なんだか無性に恥ずかしくなった。
ぼそぼそと礼を言って吉泉さんからコーヒーを受け取って、ちびちびと飲み始めたが、なぜだか吉泉さんはそんな僕をじっと見つめていて、僕はだんだん落ち着かなくなってきた。
「あ、あの吉泉さん、なんでそんなにじっと見て……」
「ん? ああ、いや。
こんなふうに君がいつも生徒会室にいてくれたら、毎日が楽しいだろうなと思ってね」
「えっ……」
そ、その口説き方ってなんかおかしくないですか?!
それって副会長が生徒会長候補を口説くセリフというよりは、ドラマや映画でよく見る男が女を口説くセリフのような……。
セリフだけじゃなく、吉泉さんの顔つきも何だかおかしい。
さっきの笑顔でも優しい顔でも、厳しい顔つきでもなく、例えて言うならまるでライオンが獲物を狙っているような顔。
そんなことを考えてしまった途端、僕は自分のあまりの自意識過剰さに恥ずかしくなって、体がかっと熱くなるのを感じた。
いや、おかしいから!
僕は男なんだから、女みたいに吉泉さんに口説かれるとかないから!
獲物的な意味で狙われるとかないから!
自分のばかげた考えを追い出し、熱くなった体を冷ましてしまおうと、僕はぬるくなった残りのコーヒーを一気に飲んだ。
そうするとどうしたわけか、僕の体はなおいっそう熱くなり、心臓がドキドキしてクラクラめまいがしてきてしまった。
「平井、どうした。
顔が赤いぞ」
「なんか熱くて……」
僕がそう言うと、吉泉さんは僕の額に手のひらを当てた。
その大きな手はひんやりと冷たかったのに、なぜかその途端にまた体温が上がった気がする。
「これは大変だ。熱があるぞ。
この奥が仮眠室になっているから、ちょっと横になった方がいい」
そう言った吉泉さんの口調は、慌てているわけでも心配そうでもなく、なぜか奇妙に棒読みだった。
なぜ、とその顔を見ると、吉泉さんはさっきと同じ、獲物を狙うライオンのような顔つきをしていた。
やばい。
わけもわからず、本能的にそう感じた。
「すいません、今日はもう帰ります」
なんとかこの場を離れた方がいいと、そう言って慌てて立ち上がったが、足元がふらついて、あろうことか僕は吉泉さんの方に倒れ込んでしまった。
「おっと」
僕を易々と受け止めてくれた吉泉さんの腕は、見た目からはわからなかったが意外とたくましかった。
そのことに一瞬気を取られたことが命取りになって、気付けば僕は吉泉さんの肩にかつぎ上げられていた。
「お、下ろしてください!」
「そんなにふらついているのに、何を言っているんだ。
いいからちゃんとつかまってろ」
そう言いながら吉泉さんは奥に見えたドアへと向かってずんずん歩いていった。
そして僕をかついだまま、ポケットから器用に取り出した鍵でドアを開けた。
「何、この部屋!」
「仮眠室だ」
吉泉さんは淡々とそう言ったが、吉泉さんの肩にかつがれて入った部屋は、とてもじゃないが仮眠室には見えない。
だいたい仮眠室なのに、置いてあるベッドが豪華なダブルベッド一つってどういうことなんだ!
なんだかわからないが、この部屋は絶対まずいと、僕はバタバタと暴れたが、吉泉さんは構わずに部屋のドアと鍵を閉め、暴れる僕をダブルベッドの上に放り出した。
「熱いだろ。
今、服脱がせてやるから」
吉泉さんは真顔でそう言うと、僕のカッターシャツのボタンに手を伸ばした。
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