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「急に大きな声出して、ごめんなさい」
1LDKの浅海宅へ招かれたまひるは制服姿だった。
「浅海さん、びっくりしましたよね、電話中だったのに」
エンブレムがついたオフホワイトのセーターにチェック柄のズボン、肩に引っ掛けたままのスクールバッグの取っ手を両手でずっと握りしめている。
「まひる君、まさか学校が終わってからファミレスにずっと?」
ソファに座らせて浅海が問いかければ、まひるは首を左右に振った。
「期末テストも終わったし、友達とカラオケに行って、ごはん食べて……それからあのファミレスにいました」
「まひる君、カラオケとか行くんだ」
一先ずスーツをハンガーにかけ、隣に座った浅海は、まひるの熱唱している姿が思いつかなくてちょっと笑ってしまった。
「オレは、あんまり……友達が歌うの、ポテト食べながら聞いてます」
「メールくれたら急いで帰ってきたのに」
「……気を遣わせたくなくて」
浅海がちょっとだけ普段と違うことにまひるは気づいていた。
ストライプ柄のワイシャツから自分にとって馴染みのないお酒やタバコの匂いがしていることにも。
「浅海さん、最近、忙しそうだったから」
「うん。ちょっと仕事が立て込んでて」
まひる君の制服姿、久し振りに見る。
最初に見たときは女の子って間違えるくらい……線が細くて……肌が綺麗で……。
「浅海さん……?」
まじまじと凝視されてまひるは照れ戸惑い、浅海は慌てて視線を逸らした。
酔った勢いとか、絶対に駄目だからな、俺。
眼鏡をかけ直したりなんかして、さり気なく取り繕う浅海の横顔を見、まひるは天然イチゴ色の唇を一瞬きゅっと硬く閉ざした。
「……お酒、飲んできたんですよね」
「あ、うん。職場の人間とね」
「楽しかったですか?」
「え、あ、うん。外で飲むのは久し振りだったし。大分息抜きになったかなぁ」
「……そうですか」
エアコンを点けていない室内は肌寒かった。
静かで、乾いていて、外の何気ないノイズがよく聞こえた。
「オレと会うより職場の人とお酒を飲む方が楽しいんですよね」
まひるは余ったセーターの袖を指先に巻き込んで、ほんの僅か眉根を寄せ、言った。
が、すぐに眉間の皺はなくなって、みるみる頬を紅潮させ、思わず失言した唇を焦り気味に動かした。
「浅海さんにこんなこと言うつもりじゃなかったのに、いやなこと言ってごめんなさ、」
最後の「い」は浅海の唇にぱくりと食べられた。
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