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「浅海さん……」 意味もなく名前を呼びたくなった。 他の男の人だったら絶対むりなのに、浅海さんだと、どうしようもなく物欲しくなってしまう。 「オレ、自分のこと、軽蔑しそう……」 「俺を軽蔑するんじゃなくて……?」 まひるはブルブル首を左右に振った。 「この間、ホワイトデーだったんです……」 急に何を言い出すのかと、浅海はぎこちなかったまひるの愛撫を中断させ、汗ばんですらいる顔を覗き込んだ。 「お返し、もらってないです」 「あ……ごめんね、何がいいかな、まひる君の好きなもの、」 「浅海さんがほしいです」 「え……?」 「オレをもらってください」 「……いや、それだと俺が二重に得するだけ……いやいや、まひる君、急にどうしたの?」 今夜、本番直行するつもりは微塵もなかった浅海は、思ってもみなかったまひるの申し出に呆気にとられた。 そばにいると誰よりも安心できて、時々、無性にどきどきして、今みたいに物欲しくなって。 新鮮な気持ちを惜しみなく芽吹かせてくれる浅海と、もっと深い繋がりがほしい、まひるはそう思った。   「そう言ってもらえて嬉しいけど、焦る必要ないよ?」 「……オレと浅海さん、出会って、もう半年以上経ちます。浅海さんは働いてて、高校生の俺と違って忙しいから、こんな風に会えない日が続くことも、わかってます」 まひるは仔猫みたいに浅海にきゅっとしがみついた。 「……オレ、不安でした、このまま忘れられちゃうんじゃないかって……だから会いにきました……」 毎日会ってほしい、そんなむりは言わないから。 離れていても想いの拠り所にできる絆がほしい。 「俺も同じこと考えてた」 浅海は胸に顔を埋めるまひるを抱きしめた。 「俺の本音を言えば、ね、さっきのまひる君の言葉とても嬉しかった」 「じゃ、じゃあ……このまま……」 「このまま君のこと貫きたい」 浅海の腕の中でまひるは黒目がちの双眸を頻りに波打たせた。 「でもね。それ以上に。君の心と体が大切なんだ」 浅海さんは。 十歳年上で、優しくて、オレの好きな人。 オレにとっても一番大切な人。 「焦らなくていいからね」 「はい……でも……」 「うん?」 「トイレやお風呂に行って……自分一人で……しないでほしいです……」 「………………」

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