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3-9
「浅海さん……」
意味もなく名前を呼びたくなった。
他の男の人だったら絶対むりなのに、浅海さんだと、どうしようもなく物欲しくなってしまう。
「オレ、自分のこと、軽蔑しそう……」
「俺を軽蔑するんじゃなくて……?」
まひるはブルブル首を左右に振った。
「この間、ホワイトデーだったんです……」
急に何を言い出すのかと、浅海はぎこちなかったまひるの愛撫を中断させ、汗ばんですらいる顔を覗き込んだ。
「お返し、もらってないです」
「あ……ごめんね、何がいいかな、まひる君の好きなもの、」
「浅海さんがほしいです」
「え……?」
「オレをもらってください」
「……いや、それだと俺が二重に得するだけ……いやいや、まひる君、急にどうしたの?」
今夜、本番直行するつもりは微塵もなかった浅海は、思ってもみなかったまひるの申し出に呆気にとられた。
そばにいると誰よりも安心できて、時々、無性にどきどきして、今みたいに物欲しくなって。
新鮮な気持ちを惜しみなく芽吹かせてくれる浅海と、もっと深い繋がりがほしい、まひるはそう思った。
「そう言ってもらえて嬉しいけど、焦る必要ないよ?」
「……オレと浅海さん、出会って、もう半年以上経ちます。浅海さんは働いてて、高校生の俺と違って忙しいから、こんな風に会えない日が続くことも、わかってます」
まひるは仔猫みたいに浅海にきゅっとしがみついた。
「……オレ、不安でした、このまま忘れられちゃうんじゃないかって……だから会いにきました……」
毎日会ってほしい、そんなむりは言わないから。
離れていても想いの拠り所にできる絆がほしい。
「俺も同じこと考えてた」
浅海は胸に顔を埋めるまひるを抱きしめた。
「俺の本音を言えば、ね、さっきのまひる君の言葉とても嬉しかった」
「じゃ、じゃあ……このまま……」
「このまま君のこと貫きたい」
浅海の腕の中でまひるは黒目がちの双眸を頻りに波打たせた。
「でもね。それ以上に。君の心と体が大切なんだ」
浅海さんは。
十歳年上で、優しくて、オレの好きな人。
オレにとっても一番大切な人。
「焦らなくていいからね」
「はい……でも……」
「うん?」
「トイレやお風呂に行って……自分一人で……しないでほしいです……」
「………………」
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