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それからの浅海の行動は実に迅速であった。
現在地より最も近くにあるシティホテルに電話し、オンシーズンとなる繁忙期に奇跡的にデイユースの当日予約に成功すると、迷わず直行した。
「……浅海さん……」
予告通り、春休み中の週末で賑わう宿泊施設のフロントでカードキーを受け取るとダブルの部屋へまっしぐら、入室するや否や、まひるをぎゅっっっっとした。
とても静かだった。
観光客やレストランの利用者など、様々な客層で賑わっていたロビーのざわめきが嘘のようだった。
まひるは、浅海の腕の中で大人しく恥ずかしそうにしていた。
徐々に抱擁の輪が緩まっていったかと思えば、また改めてぎゅっと掻き抱かれる。
あたたかな掌で優しく頭を撫でられたり、背中を上下に擦られたり。
……浅海さん、どうして急にこんなこと……?
『まひる君、すごいね、本当にすごい』
さっきはオレのこと褒めてくれた。
ほんとは、無茶してほしくないって、心配してるのかな。
まひるは、そっと目を閉じた。
アウターを羽織ったままでいる浅海の背中にたどたどしく両手を回す。
なだらかな胸に片頬を押し当て、安心する懐に自然と緊張を解いていく。
空気が乾燥した部屋の出入り口でまひるの温もりを全身全霊で感じ取っていた浅海だが。
ふと、意識に掬い上げられた微かな違和感につられて口を開いた。
「まひる君、身長伸びた?」
問われたまひるは問うた浅海本人が意表を突かれるくらい勢いよく顔を上げた。
「そうなんですっ、伸びました!」
嬉しそうに顔を綻ばせ、いつになく大きな声で無邪気に答える。
「この間、保健室で測ってみたら伸びてましたっ」
「そうなんだ」
「0.8センチ伸びてました!」
浅海は危うく吹き出しそうになった、しかし寸でのところで堪え、0.8センチの成長に気がついた自分を称えつつ「三年生になったらまだまだ伸びるかもしれないね」と笑顔を返した。
すると。
いきなりまひるの表情が曇った。
「まひる君?」
「オレ……あんまり大きくならない方がいいですか?」
依然としてドアの前に立っている浅海とまひる。
姿見に写る二人の身長差は一目瞭然だった。
「そんなわけないよ」
浅海は自分の懐にすっぽりおさまる華奢な男子高校生に言う。
「俺より大きくなっても構わないよ」
すると、今度は、まひるは珍しく唇を尖らせて不満げな顔つきになった。
「それって皮肉ですか、浅海さん」
もうすぐ十八歳になるオレが今から浅海さんを越えるくらい身長が伸びるわけ、ない。
平均値だってないのに。
筋肉もあんまりついてないし。
「どうせオレは貧弱です……」
まひるの自己嫌悪スイッチを押してしまった浅海は慌てるどころか。
「どんなまひる君でも俺は大好きだよ」
デレた。
滅多にお目にかかれないまひるの膨れっ面にデレまくった。
「まひる君は? 俺がメタボになったら嫌いになるの? ハゲちゃったら俺のことあっさり見捨てる?」
「そ、そんなことしません、見た目が変わっても、浅海さんのこと嫌いになるわけ」
「俺も一緒だよ」
次の浅海の行動にまひるは呆気にとられた。
「でも、俺より大きくなったらできなくなるかもしれないから、今の内に、ね」
お姫様抱っこされたまひるは次の言葉が続けられずに浅海をただただ仰ぎ見、デレの頂上に達しかけている浅海は再びまっかっかになったまひるに笑いかけた。
「このままベッドに運んでもいい?」
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