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5-最終章

まひるは高校三年生になった。 それまで地道にコツコツ勉強し、定期試験では常に好成績、授業日数も生活態度も問題なかった受験生は第一希望に掲げていた地元大学の推薦枠に選ばれた。 「浅海さん、オレ、受かりました」 合格が決定したのは二学期の十一月下旬のこと。 平日の夜、わざわざマンションまでやってきたまひるは、帰宅したばかりでワイシャツ姿の浅海に玄関で開口一番に報告した。 「おめでとう、まひる君、よく頑張ったね」 月並みなお祝いの言葉を浅海が送れば、まひるはとても嬉しそうに笑った。 「浅海さんが応援してくれたから頑張れました、これ、合格通知書です」 何ともいとおしい返事に、自分に見せるために大切な書類を持ってきていた制服姿のまひるに浅海は胸をぎゅっっっと締めつけられた。 「……浅海さん……」 我慢できずに玄関でまひるをひっしと抱きしめた。 「本当におめでとう」 「ありがとうございます……浅海さんにそう言ってもらえるの、一番嬉しい」 「う……締め殺されそう」 「えっ? オレ、そんなに力入れてましたか……?」 健気な言葉で畳みかけられて胸がぎゅうぎゅう状態の浅海は笑った。 「俺もまひる君を見習ってソフト開発頑張ったよ」 「そうなんですか?」 「ちゃんと納期に間に合わせたよ、ギリギリだったけど」 「そうなんですね。おめでとうございます」 夜の八時前。 周囲の生活音や通りを行き来する車の走行音がひんやりした静寂を震わせていく。 「頑張った俺にご褒美くれる?」 本来ならばご褒美を渡す側でありそうな浅海は指通りのよい黒髪に鼻先を沈め、年下の恋人におねだりした。 「ご褒美……ですか?」 まひるは黒目がちな双眸をきょとんと見張らせる。 「うん、ご褒美」 浅海はまひるの頬を両手でそっと包み込んだ。 「俺と一緒に旅行に行ってくれる?」 眼鏡越しの優しい眼差しに、旅行のお誘いに。 恋人の掌の下でまひるの頬はほんのり赤くなった。 「それってオレにとってもご褒美ですね」 秋夜の冷たさが沈殿しているはずの玄関で二人はしばしぬくぬくと抱き合うのだった。

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