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十二月頭の期末テストが終わったら一泊二日の温泉旅行。
もしかしたら、とうとう、浅海さんと……。
午後一の授業中、まひるはいつにもまして真剣な表情で日本史の教科書とにらめっこしていた。
頭の中ではまったくもって別のことを考えていたが。
……浅海さんと初めて最後までしちゃうかもしれない……。
日本の歴史がつらつらと綴られているページの裏でまひるはきゅっと唇を結んだ。
初めてキスしたのは高二の冬休みだった。
それから……いろいろ経験は重ねたけれど……せ……せ……せっくすは、まだ、してない。
『このまま君のこと貫きたい』
まひるのように大学合格がすでに決まった生徒もちらほらいれば一般入試やセンター試験を控える生徒も多数いる教室。
様々な感情が入り乱れている中、まひるは、そっとため息をついた。
『でもね。それ以上に。君の心と体が大切なんだ』
本当はもっと早くてもよかった。
でも浅海さんが受験のことを気にして、三年生になってからは会う回数が減っていった。
でも、たまにごはんに行ったり、連休や夏休みにはお泊まりだってしたわけで……。
『俺の指、まひる君のこんなところまで挿入 るようになったね……?』
……授業中になんてこと思い出してるんだろう、オレ……。
昼休み、浅海は意気揚々と総務部へ休暇簿を提出してきた。
寒さが増すこの時期、勤務時間中はスーツを脱いで会社の作業ジャンパーを着用している。
自分のデスクに戻ると温くなったコーヒーを一気に飲み干し、背もたれに背中を預け、スマホでいくつかピックアップしていた旅館を確認してみた。
とりあえず自分的に部屋食は欠かせない。
露天風呂付き客室も惹かれるけれど、内風呂の方がリラックスできて落ち着く。
『浅海さんと初めての旅行、楽しみにしてます』
まひるの照れた笑顔を思い出す度、ニヤけそうになる顔面を必死になって浅海は平静モードに保つ。
『ほんとに、本当にありがとうございました……』
まひる君と出会って一年半くらいが過ぎた。
実家から通える私立大学の福祉心理学科に合格して、今も入学前の準備教育や手続き、気を抜けないテスト勉強で大変ではあるだろう。
来年の春からはもっと忙しくなる。
今の内に二人の記念になる思い出をつくっておかないと。
大学進学が決まって喜ばしい反面、正直なところ、浅海は淋しい気持ちもほんのちょっとだけ抱いていた。
これは完全なる俺のエゴだけど、ね。
『いつか被害者も加害者も存在しなくなる世の中になればいいなぁって』
成長してどんどん魅力的になっていく君にどれだけの人間が引き寄せられることか。
考えたら胃が痛くなる……。
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