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「おいしかったです、ごちそうさまでした」
かなりの量であった会席料理をデザートまで全て残さずまひるは食べ切った。
「まひる君、少食なのに珍しくいっぱい食べたね」
客室係によってテキパキと片づけられて綺麗になったテーブル。
向かい側の座椅子に座って寛いでいた浅海にまひるは笑顔で頷いた。
「いつもだったら食べれない量でしたけど、今日はテンション上がって食べちゃいました」
浅海と同じくまひるも浴衣を着ていた。
程よい空調に保たれた部屋では寒さを感じることもない。
居心地のいいリラックス空間、おなかいっぱい、これが家族旅行であれば眠くなっていたに違いない。
「テンション上がってくれて嬉しい」
しかし相手は浅海で。
年上の恋人で。
彼との初旅行で。
……ごはんが済んで、えっと、今は八時で。
……もうちょっとしたら浅海さんとお風呂。
どきどき感が半端なくて眠気どころではなかった。
正直、頭の中はそーいうことだらけだった。
「まひる君」
食事中は自然体であったが、いざ食事が済むと伏し目がちになってそわそわし始めたまひるに浅海は笑った。
「緊張してるの?」
……浅海さんに笑われちゃった。
……まだまだこどもだなって、きっと思われてる。
「……はい。緊張してます」
まひるは素直に答えた。
「やばいな」
浅海の返事にまひるは内心首を傾げた。
テーブルに縫いつけていた視線を移動させ、頬杖を突いていた浅海と目を合わせた。
「あんまりにも愛おしくて俺の心臓爆発しそう」
頬を上気させた浅海に優しく笑いかけられてまひるの心臓も危うく大爆発しそうになった。
「そんなこと言われたらオレの心臓引っ繰り返ります」
浅海はテーブルに片腕を伸ばした。
上に向かって掌を広げてみせる。
まひるは彼の掌に自分の掌をそっと重ねた。
「まだ先でもいいよ」
「え」
「クリスマスまでとっておく?」
「あ」
「今日は純粋に温泉を楽しむだけでもいいし」
自分よりも大きくてしっかりした骨組みの手。
滑らかな質感の柔らかな手で、きゅっと、握り締めた。
「ううん……今日こそ……最後まで」
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