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浴室窓の外側にかけられた簾の向こうでは雑木林の紅葉がライトアップされていた。 一人先に入ったまひるは体を洗って洗髪を済ませ、お湯がなみなみと湛えられた檜風呂に浸かっていた。 壁に取り付けられた橙色の間接照明が深い陰影を生んでいる。 無色透明の熱めの温泉で顔をぱしゃぱしゃ、湯気のこもる天井をぼんやり眺め、ふーーーっと一息ついた。 「……浅海さん……」 カラカラと開かれた引き戸。 浅海がやってきた。 横並びを意識し、湯船の中でまひるが体をずらそうとしたら。 浅海はまひるの真後ろにその身を浸からせてきた。 「やっぱり部屋の内風呂もいいね」 後ろからやんわりハグされる。 「大浴場の露天風呂もよかったけど、こっちの方が落ち着く」 浴室に重たげに反響する声。 時に水音もまじって静寂をゆっくりと撹拌した。 「浅海さん、やっぱり眼鏡かけたままなんですね」 以前、シティホテルで一緒にお風呂に入ったときも浅海は眼鏡をかけていた。 「うん。外すとぼやけてよく見えないから。レンズが真っ白に曇っても笑わないって約束してね」 まひるはクスクス笑って頷いた。 「本当、きもちいい」 胸元に絡みついた両腕にちょっと力がこめられると、一瞬、呼吸の仕方を忘れそうになった。 「二人で入っても十分広い」 「うん……檜風呂って、いいですよね」 「うん。贅沢感がすごい」 「ここって……高かったんじゃないですか?」 「君はそんなこと気にしなくていいから」 「……」 「まぁ正直に言うと、こんな高いところ初めて泊まった」 「……そんなに?」 「たまには贅沢しないと。せっかくのご褒美なんだし。それに実際泊まってみて満足度がすごい。館内どこも綺麗でご飯も美味しくて、スタッフの人も親切で、ここにしてよかった」 他愛ない話でリラックスさせようとしてくれる浅海に、まひるは、逆に胸を締めつけられっぱなしだった。 湯船で火照っていた体が新たに熱せられていく。 「まひる君、キスしていい?」 そんな問いかけにお腹の底まで熱くなった。 「キス一つでもしたら、もう、止められなくなるけれど」 ちゃぷん、湯面が緩やかに波打った。 お湯を溜めてより一層匂い立つ檜風呂の中で体の向きを変え、まひるは、濡れた前髪越しに浅海を見つめた。 「止めないで、浅海さん」

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