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「え」 夕闇が穏やかに侵食を広げて瞬き始めた街並み。 カーテンを締め、部屋の明かりを点けた浅海が棒立ちになれば、まひるは咄嗟に俯いて小さく謝った。 「ごめんなさい」 弱々しげに掠れた声に浅海の胸はチクリと痛んだ。 映画を見た後、期間限定のドリンクを美味しそうに飲んで楽しげに笑っていたはずの高二男子にこんな弱り果てた声を出させた自分自身に嫌気が差した。 「いいよ」 まひるは顔を上げた。 眼鏡のレンズ越しに紡がれる優しい眼差しを浴びて先程から強張っていた心がじんわり解れていく。 最近、時にぎこちない態度をとることが多々あった浅海の以前と変わらない微笑にほっと安堵した。 「晩ごはん、冷蔵庫の残り物でテキトーな仕上がりになるかもだけど」 「オレ、がんばって手伝います」 やっぱり君にはそんな風に笑っていてほしいよ、まひる君。 うん、大丈夫、俺がいつものようにセーブすればいいだけのこと、二人っきりのウチだろうと平気だ、今日の映画だって隣同士で肘がくっついただけで思春期みたいに心臓バクバクしたけど、大丈夫、平気、大丈夫……だいじょう……ぶ……。 ゴマ油がほんのり香る和風パスタに玉子スープ、アボカドサラダを小柄なまひるは残さず完食してくれた。 「後片付けしますね」 自ら進んで食器を運んで洗い物する姿にこっそり見惚れていた浅海であったが。 夜が進むにつれてまひるの口数は少なくなって。 明らかに緊張した面持ちで。 始終俯きがちとなって点けっぱなしのテレビすら観ようとしない。 あ……あれ……まさか俺の下心だだ漏れしてる……? 「もしかして、家、恋しくなった? 今から帰るならタクシー代、」 「オレ、小学生じゃないです」 ソファに座ったまひるは自分のトートバッグをぎゅっと抱きしめていた。 先にまひるをお風呂に入らせて、当然、浅海は後から別々に入浴した。 「また借りちゃいました」 自分のスウェットをだぼっと着、ソファに座って必殺はにかみスマイルを浮かべるまひるに正直ノックアウト寸前まで追い詰められたものの。 「毛布一枚だし、暖房は点けとくから」 「消してもいいです、平気だから」 「駄目だよ。風邪でも引いたらどうするの」 「……」 「まひる君の好きなように過ごしていいから。テレビも見ていいし、俺のことは気にしないで」 「……テレビ見ません」 「そう? じゃあ、おやすみ」 「……おやすみなさい」 浅海はリビングのソファにまひるを残して寝室にそそくさ退散した。 よし。 後は朝を待つだけだ。 寝れるかどうかはわからないけど耐えるのみ、だ。

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