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「え」
黒目がちな双眸が限界近くまで見開かれた。
サイドテーブルに置いていた眼鏡をかけ、シーツに片肘を突いた浅海に箱を傾けられて深夜の昂揚感に拍車がかかる。
冷えていた指でトリュフを一つ、恐る恐る手に取れば、浅海は待ち構えるようにうっすら口を開けた。
唇に触れた甘さ控え目なビター風味。
たどたどしく押し込まれて舌先で受け止める。
口の中にふんわり満ちていくオトナな香り。
「おいしい」
目の前でチョコレートをじっくり食した浅海にまひるはクラクラした。
可愛らしい小動物ならまだしも、年上の男に餌付けするなんて生まれて初めてで不慣れな行為に心底辟易していたら。
「これって。微妙に色が違うみたいだね」
「あ……うん、全部それぞれ違う味なんです」
「じゃあ、これ、まひる君食べてみる?」
「え」
今夜二度目の驚きの「え」が出たまひる。
相変わらずベッドに寝そべったままの浅海はトリュフを一つ摘まみ、双眸をうるうる潤ませているまひるの目の前に差し出した。
まひるはぎゅっと目を閉じた。
怖々と開かれていく天然イチゴ色の唇。
いとおしくなるくらい震えている睫毛。
「ン」
ゆっくり口の中に入ってきたトリュフは格別に甘いミルクチョコレートの味がした。
ちょっと歯を立てれば舌の上にじわりと広がった上品な風味。
噛むのに精いっぱいでろくに味わうことさえできなかった。
「おいしい?」
頑なに閉じていた目を開ければ間近に覗き込んで様子を窺う浅海がいた。
「わ……わからないです、味……オレ……」
「味見させて」
驚きの「え」を言う暇もなかった。
まだろくに咀嚼していなかったトリュフを内側に残した唇に……たっぷりキスされた。
「ぷぁ……っ……浅海さ、ん……っ」
「ん、俺のより甘いね……コレ、もうちょっと欲しいな……」
「っ……んーーーー……っっっ」
結局、ほぼ浅海に食べられてまひるは二つ目のトリュフを吟味することができなかった。
ほんとうに甘くなった天然イチゴ色の唇。
下顎に伝い落ちた雫まで。
目尻に溢れた涙すら甘そうな。
「あ……」
浅海が三つ目のトリュフを摘まみ上げた。
たっぷりキスされて黒目がちの双眸が溶けそうになっていたまひるは、ごくっと、喉を鳴らす。
「コレ、はんぶんこ、しようか」
クチュ……クチュ……ちゅっ……
「ん、ぷ……っ……っ……ふ……ぁ……っ」
抱き起こされたまひるはネイビー色のパジャマを着た浅海のお膝に乗っけられていた。
正面をぴったり重ね、細腰に両腕を回され、落ちないよう支えられて。
延々と続けられるどこまでも甘い甘いキス。
執拗に違う角度から、深く、浅く、思いがけないところまで。
唇が蕩けてしまいそうだ。
「四つ目も甘かったね」
「ンっ……ぜんぶ……甘かったです……」
一番甘いのは、まひる君、君だけどね。
仔猫みたいに縋りついてくるまひるの髪に頬を埋め、浅海は、真心込めた抱擁で年下の高二男子を甘やかす。
過ち扱いなんかしたりしてごめんね。
手を出した責任はちゃんととるつもりだよ。
一晩、いや、数えきれない夜をかけてね。
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